ステント手術に到るまで | ポテトサラダ通信(校條剛) | honya.jp

ポテトサラダ通信 60

ステント手術に到るまで

校條剛

 私は現在72歳(2月に73歳になります)。60歳の丁度会社定年を迎える直前に糖尿病と診断され、地元医院から八王子の大学病院に移って、半年通いました。そのときの栄養指導では一日のカロリーを1600キロに抑えることを推奨され、示されたメニュー表には、白米の茶碗がしっかりと据えられていました。
 しかし、『糖尿病に薬はいらない!』というタイトルの文庫本を読んでいましたから、白米に代表される炭水化物がいかに血糖値を高めるかを知っていました。栄養士の指導には強く反発し、それを完全に無視して、自分なりの食事メニューを作ってきました。
*そもそも、栄養学というものは、ちゃんとした科学ではないので、まともな情報を与えてくれないと私は考えています。栄養士のなかで唯一その発言を参考にしたのは、京都に住んでいたときに通っていたクリニックでときどきお話しした女性だけです。この方は、「自分の頭で考える」という学問本来の柔軟性を持っていましたから。
 その時代、カロリー制限で糖尿を抑えるという考えが糖尿病学会でも常識だったようです。未だにそういう指導をしている医師もいるかもしれませんが(?)、もしもあなたがそういう医療の元で「ちっとも数値が改善されないな」と嘆いているのなら、すぐに医師を変えた方がいいでしょう。

 牧田善二医師の著作『糖尿病で死ぬ人、生きる人』(文春新書)は、もう初版が2014年とやや古いですが、当時のアメリカの最先端医療を紹介していて、単にアメリカということで有り難がるわけではなく、治験のデータに基づいた情報ですから、日本の糖尿病学会の意見よりも信用出来たのです。
 その本のなかで、2009年、糖尿病の権威であるアメリカの医師のもとを訪れたときのことが書かれています。日本ではカロリー制限が主流だと話すと、「遅れているな」と。当時既にアメリカでは普通に使われていたインクレチン剤も日本では承認まえだったのですから、日本の糖尿病対策がいかに遅れているかの証拠になります。
 学会所属であることを日本の医師は目標にするようですが、なんのことはない、学会そのものがこうした旧弊に陥った組織なのです。もちろん、学会だけではなく、なにかと腰を上げるのが遅い厚労省という行政にも責任があることはよく言われていることです。
 牧田医師が教えてくれた情報が動機付けになり、昨秋、心臓冠動脈のCT検査を受けて、すぐにカテーテル検査に移り、一本のステントを入れることになったのです。そのまま放っておいたら、心筋梗塞を起こし、最悪は死んでいたかもしれません。
 牧田医師の新書では次のように書かれていました。
〈特に最近は欧米並みに心筋梗塞が増えています。そして糖尿病患者はとてもこれになりやすい。しかし、この心臓検査も冠動脈CTという、非常に解像度の高い機器の開発により、画像診断の精度が飛躍的に向上しました。〉

 糖尿病患者はあらゆる病気になりやすいことが分かっています。癌、心臓病、脳卒中、肺炎など、つまり致命的な病気をほとんど網羅しています。糖尿病患者を診ている医師であれば常に患者に対して警告を発しなければなりません。牧田医師は、自分の患者には毎年一回、胸部と腹部のCTを半強制的にやってもらうそうです。
 私はその言葉をよく頭に叩き込んでいましたので、コロナが一段落したと思えた(その後、第八波が来たのですが)、2022年春に腹部のCTを撮り、膵臓などが正常であることを確認しました。 
 そして、同じ2022年の11月に主治医の紹介状を持って、八王子M循環器病院に心臓冠動脈のCT検査のために訪れました。
 実はこの検査に関しては、何の心配もしていませんでした。よくよく考えると、糖尿病になった原因である血管の老化、つまり動脈硬化は十年以上まえから、いろいろな悪さを繰り返していたのですから、本来心配してしかるべきだったのにです。

 主治医の医院では頸動脈のエコー検査の結果、プラークが最大2.6ミリ詰まっていることが知らされていました。ただ、三年まえに脳のMRIを撮影したあとに気持ちのいい診断結果を聞かされていたので安心していたのです。そこでは、「非常に綺麗な脳です。萎縮も、梗塞の気配もありません。この状態からすると、心臓も綺麗ではないかと思います」と。
 それは、大きな間違いだったのです。
 心臓のCT検査の画像を診た医師は次のように言いました。
「非常に悪い状態です。いつ発作を起こしても不思議ではありません。すぐにカテーテル検査をして、狭窄が基準を超えているようならステントを入れなければならないでしょう」と。
 翌日に空きがあるので、すぐにカテーテル検査を、と医師に迫られたのですが、決断には多少のためらいが生じました。一週間後に関西出張が控えていたからです。
「旅先で倒れて、そのまま死んでしまうこともありえますよ」と医師は容赦なく私を追い込みます。
 翌日、生涯最初の一泊の入院でカテーテル検査に入りました。結果、一カ所狭窄が激しいところに最新の(薬剤が塗ってある)ステントを挿入することになり、私も何人かの友人たち同様に生涯「血をさらさらにするクスリ」を服用する運命となったのでした。

 私が主治医の指示だけに従っていたら、ステントを入れる手術より先に心臓の発作を起こしていたかもしれません。持病のある方は、掛り付けの医師の言葉だけではなく、新書やネットで自分なりの勉強をしておいたほうがいいのです。今は銀座「AGE牧田クリニック」の牧田医師にひたすら感謝を捧げます。
 
 私の主治医がCT検査を勧めなかったことについて補足しておきますと、私の場合には心臓病の症状が現われていなかったので、保険適用が難しいと考えていたのでしょう。CTの保険適用要件はたいへん厳しく制限されているとのこと。銀座の牧田先生は健康保険診療をしていません。CT検査に関しても、保険適用外の一般の検査ということになりますから、3万~5万円くらいの検査料がかかるはずです。ですから医師は、症状がなくても保険適用がなされるように必要項目を並べる必要があります。そういう苦労が医師には課されているので、そこのところは理解してあげなくてはいけないでしょう。

 さて、次回はステントを入れた病院で「呆れたこと」を書いてみたいと思います。「金儲け主義」と「劣等看護師」についてです。