ポテトサラダ通信 34
にわか京都人
校條 剛
この4月10日は、私の五年ぶりの新刊の発売日だった。本のタイトルは『にわか〈京都人〉宣言 東京者の京都暮らし』(イースト新書)という。
私は京都造形芸術大学(現在「京都芸術大学」と改称)の教授職を務めるため、四年間の単身赴任生活を京都の中心部、いわゆる洛中である中京区で過ごした。その間は、ほとんど教務に縛り付けられていたが、合間合間に京都の食文化に触れ、東京にはない風習を知り、この都市独特の思考法に触れた。
「触れた」と言ったのは、この千年の都の奥深さをたった四年で「知った」というのはおこがましいからである。
それでも、現代京都の姿を多少とも伝えることは出来たのではないかと自負はしている。京都の書店には「京都本」が数多く並んでいるが、私のように日常生活を描いて現代京都をリアルに伝える書籍は初めてではないだろうか。そのことが可能であったのは、やはり私が東京暮らしの長い東京人であり、東京との比較によって京都を眺めることが出来たからに他ならないだろう。
さらに私には、京都と何十年と馴染んできた自分史も用意されていた。出版社の文芸編集者だった時代に、京都の祇園や木屋町などで酒食を数多く経験しているし、個人旅行でも何度も訪れている。東京以外の地方都市で、京都ほど頻繁に通ったところはないのであった。
そうした背景もあって、旅人から見た京都と住んでわかった京都との違いも、この本では語られているはずである。
この新書の具体的な内容を説明するには、本書の秀れた担当編集者が作成した帯の文句を並べるのがいいだろう。ちなみに帯の表は旧知の歴史学者、磯田道史氏の推薦の言葉で占められており、以下の文言は帯裏に書かれている。
・観光ではわからない「生活の場」としての京都の姿
・謎のスーパー「FRESCO」はどこからやって来たのか
・「地蔵盆」を他国人は知らない
・祇園の夜の「いけず」体験
・「京都中華」を知っていますか
・まるで地元民! よそさんの堂々「京都化け」現象
・変貌していく京都の町並み
どうです、なかなか面白そうでしょう。晩年になって、京都に住みたいと思い始めた方、旅行者では飽き足らずに京都生活を夢想されている方などに是非お勧めしたい本です。
ところがところが、このエッセイを書いている2020年4月13日の段階で、私の本は窮地に立たされています。コロナ感染の拡大により、東京に緊急事態宣言が発令され、東京の書店の大多数が臨時休業に追い込まれているからです。東京どころか大都市の書店はどんどん休業しています。京都の書店はまだしぶとく開いているようですが、今後は休業に追い込まれるでしょう。もちろんアマゾン、楽天、紀伊國屋などの通販は健在ですが、皆さんすべてが、通販を利用されているわけではないでしょう。
一刻も早く感染が下火になり、対コロナの特効薬とワクチンの生産が可能になって、書店がこれまで通り営業することが可能になることを祈らずにはいられません。
■『にわか〈京都人〉宣言 東京者の京都暮らし』(イースト新書)
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781651231