閉門即是深山 554
月々に!
月々に、月見る月は多けれど
月見る月は、この月の月
私は、この詩が好きだ!
私の部屋からは、立ち並ぶ高層ビルからお月様が顔を出すのが手が届くように見える。マンションの反対側の眺めは東京湾で、以前はレインボーブリッジや富士山がよく見えた。首を伸ばせば東京スカイツリーも見える。しかし、大きな欠点がある。私の嫌いな西陽の的になる。住んでいる人の話によれば、冬は暖房が要らないくらい温かいが、夏は冷房をつけっぱなしにしても暑いらしい。強烈な西陽なのだ。海側は、屋上階にバーがありそこからの景色は絶景だから行けばいいこと、暑さに弱い私が何も常に海側に住まなくてもいいような気がしてちょっとマンハッタンの感じもするビル群側を選んだ。
空気の澄んだ先日のことだった!「ちょっと観て、綺麗なお月様が出て来た!」家人が私を誘った。ちょうどテレビにも「今日は、一年で一番美しい満月です」と、アナウンサーが言いながら画面に大きな月が映し出されている。窓側に行くと、少し高くなった月が丸く輝いていた。「ほら、直ぐに来ないからお月様が小さくなっちゃったじゃないの」家人の声を耳にしながら、私は「綺麗な月だねぇ」と言いつつ、前記した詞を頭に浮かべた。「でもさ、まんまるのお月様を見ても雪ダルマのようにしか見えないんだよねぇ」家人に言うと「あたしだって、ぼやっとしていて輪郭がはっきりとしているわけじゃないもの」「そうか何年遅れで同じようになるんだねぇ、乱視に」
若いころは、お月様は、まんまるなモノだと思っていた。79歳になるとはっきりとした月は観えなくなる。それでいいような気もする。耳だって遠い、それで良いのだ!
平家物語に出てくる「諸行無常」という言葉も、一番短いお経と言われる「般若心経」の「色即是空 空即是色」も、こんなことを言っているんだろう!
この世が確固あるモノであるなんて、誰にも判らないんだもの!色は、形とか色とか、その他我々が見ているモノらしいが、全て生まれた後の知識で確固たるものではない!らしい。全てが「常」では無いのも判る。毎日、80歳に近づき、80歳を跨ぐかも知れない。毎日、どこかの細胞は壊れて行く!
誰の詩か忘れたが、もうひとつ好きな詞がある。
柿喰えば 鐘が鳴るなり 法隆寺
残念だが、私の住む街は新しいので寺が無い!車で5分も行けば深川だから有名な寺は沢山あるのだが、喧噪に邪魔されてか、遠距離だからか、聴くことが出来ない。子供のころは、雑司ヶ谷で、護国寺で鳴る百八つの除夜の鐘を聴きながら寝たのだが!