菊池寛競馬名言(前号より続く) | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 538

菊池寛競馬名言(前号より続く)

一、甲馬乙馬実力比敵し、しかも甲馬は人気九十点乙馬は人気六十点ならば、絶対に乙を買うべし。
一、実力に人気相当する場合、実力よりも人気の上走しる場合、実力よりも人気の下走る場合、最後の場合は絶対に買うべきである。
一、その場の人気の沸騰に囚われず、頭を冷徹に保ち、ひそかに馬の実力を考えるべし、その場の人気ほど浮薄なるものなし。
一、「何々がよい」と、一人これを云えば十人これを口にする。ほんとうは、一人の人気である。しかも、それが十となり百となっている。これ競馬場の人気である。
一、「何々は脚がわるい」と云われし馬の、断然勝ちしことあり、またなるほど脚がわるかったなとうなずかせる場合あり、情報信ずべし、しかも亦信ずべからず。
一、甲馬乙馬人気比敵し、しかも実力比敵し、いずれが勝つか分らず、かかる場合は却って第三人気の大穴を狙うにしかず。
一、大穴は、おあつらえ通りには、開かないものである。天の一方に、突如として開き、ファンをあっけに取らせるものである。何々が、穴になるだろうと、多くのファンが考えている間は、絶対にならないようなものである。それは、もう穴人気と云って、人気の一種である。
一、剣を取りて立ちしが如く、常に頭を自由に保ち固定観念に囚わるること勿れ、偏愛の馬を作ること勿れ、レコードに囚わるること勿れ、融通無碍しかも確固たる信念を失うこと勿れ、馬券の奥堂に参ずるは、なお剣、棋の秘奥を修めんとするが如く至難である。
一、一日に、一鞍か二鞍堅い所を取り、他は悉く休む人あり、小乗なれども亦一つの悟道たるを失わず。大損をせざる唯一の方法である。
一、損を恐れ、本命々々と買う人あり、しかし損がそれ程恐しいなら、馬券などやらざるに如かず。
一、一日に四、五十円の損なりても、よき鑑定をなし、百四、五十円の中穴を一つ当てたる快味あれば、償うべし。
一、百二、三十円の穴にても、手柄の上では二百円に当るものあり、二百円の配当にても、手柄の上ではくだらぬものあり、新馬の二百円をまぐれ当りに取りたるなど、ただ金を拾ったのと、あまり違わない。
一、よき鑑定の結果たる配当は、額の多少に拘わらず、その得意は大なり。まぐれ当りの配当は、たとい二百円なりとも、投機的にして、正道なる馬券ファンの手柄にすべきものにあらず。

(また来週に続きます!)