菊池寛の名言・その3 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

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菊池寛の名言・その3

 ブログで三週に渡って書くつもりは、無かった!菊池寛の名言は沢山あるが、選んでみると現実主義者とよく言われた祖父が吐く言葉は、時代が変われども今日でも通用する。
 彼の小説のテーマは、主に“不条理”だが、明治、大正、昭和初期の女性差別も主題にしていることが多い。今の女性でも「女性への差別は無くなっていないわよ!」と、言うかもしれないが、祖父が活躍した時代は今と比べ物にならなかったほど差別のあった時代だった。それが、良いとは言っていない!祖父は、小説、エッセイ、講演、発言で差別の撤廃を叫んでいた本当のフェミニストであったのだ。何十年か前にテレビでドラマ化され、新潮社や文藝春秋が挙って再販文庫化した彼の小説『真珠夫人』などの一連の小説は、彼のフェミニズムの本領を発揮していると思う。彼、菊池寛の名言集を続けてみる。

【13】ご主人にはご主人の主義があり、あなたにはあなたの主義があるんですもの。
 彼の小説の中の会話の一部である。現在でも夫婦間や恋人同士のトラブルでよく聞く風景だろう。現実主義の模範的な回答と言ってもいい。この中の“あなた”は、奥さんだと思う。性別ではなく、生きていく、モノを見て考える主義の違いは誰にでもある。夫婦の喧嘩だって大半は、主義の違いなのだ。

【14】人といっしょに物を食ったとき、相手が自分よりよっぽど収入の少ない人であるときは、少し頑張ってもこちらが払う。
 この言葉の肝は“よっぽど少ない”と“少し頑張っても”だろう。私もこの言葉に何度も救われた。自分が払うか、またご馳走になるか、迷うことが、しばしばある。そんな時、いつも私は、この言葉を思い出す。サラリーマン編集者のころには、背中に会社があるから私が払う。しかし、哀しいかなバックが居なくなれば、年金暮らしで、老人にはなかなか大枚を払ってくれる人も居ないから、ほとんど相手の方がよっぽど収入を得ている。だからご馳走になるのだが、やはり多少心が痛むから、なるべくそのような会食を断るようにしている。

【15】悪妻は百年の不作であるという。しかし、女性にとって、悪夫は百年の飢餓である。
 家人にとっては“しかし”の後、後者であろうと思う。ただ、「飢餓」に見えないのは、たぶん「百年の不作」では、ないからだろう!

【16】われ事に於いて後悔をせず
 「後悔先にたたず!」の格言に似てるが、格言と違ってリアリティがある言葉のような気がする。なぜ「自分は、何かで後悔するような事に遭遇したときに後悔をしないで済むのだろうか?」祖父・菊池寛は、私にこう答えるだろうと思う。「夏坊、そうだろ?後悔したって始まらないもの!後悔したら解決するなら後悔した甲斐もあるけどね、無いね!」
 
 名言が貯まったらまた書きます!