上半期芥川賞・直木賞 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

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上半期芥川賞・直木賞

題に敢えて上半期と書きました。この両賞は、年に2度あるからです。授賞式は、上半期は、8月最後の週の金曜日と下半期2月の最後の金曜日に決められています。
上半期は、その年の1月から6月に出版された雑誌や単行本が対象です。芥川龍之介賞規定では、個人賞にして広く各新聞雑誌(同人雑誌を含む)に発表されたる無名若しくは新進作家の創作中最も優秀なるものを呈す。とあり、直木三十五賞規定には、広く各新聞雑誌(同人雑誌を含む)に発表されたる無名若しくは新進作家の大衆文学中最も優秀なるものに呈す。とあります。両賞の規定は、ほとんど同じだが、直木三十五賞に限っては“大衆文学”という文字が入ります。菊池寛は、本の売れない二、八月に芥川賞は『文藝春秋』に、直木賞は『オール讀物』に掲載されます。これは、雑誌の売れない時期に売れるようにとの戦略なのです。

この両賞は、昭和十年に制定され、以来169回を迎えました。本来、芥川賞は純文学、直木賞は今日でいえばエンターテインメント、大衆文学を対象にしています。しかし、時代に沿って変化していく部分もあります。それは、88年間の間にメディアの事情も変化して単行本が一般化し、新聞雑誌などの作品が単行本にまとめられるようになりました。最近では、直木賞ばかりではなく、芥川賞、純文学作品も単行本になるようになりました。ですから、今では新聞連載の作品よりも単行本化を待つようになってきました。

それでは、なぜに169回(両賞とも第20回を選考後、太平洋戦争の混乱期に、4年間中断しました)、88年も永く続いたのでしょうか?
一に挙げられるのは、創設者の菊池寛の方針の一番目にくる「審査は絶対公平」だったからです。私も長く両賞の社内選考委員、委員長を務めましたからこの言葉を意識の中に叩き込んでいます。実行委員は、あらゆる新聞や雑誌の書評を読み、また出版社以外の多くの方々に評価を聞きます。それを基に、書店を回り1,2冊ずつ買うのです。なぜならば、一度に同じ本を何冊も買えば賞の候補作品がばれてしまうからです。領収書をもらわなければなりませんからね。

社内選考委員会では、私は奥付も出版元も作者名も一切見ません。バイアスがかかるからです。半年間に出版された一番優秀な作品探しですから「文藝春秋ばかり」と言われぬようにしなくてはならないのです。ただ、社風だけは、仕方がありません!文春で学び育った同じ環境の基に作り上げられていますから!ですから一出版社の商業的な企画とならないように気使いは欠かせないのです。
また、両賞とも各10名前後の作家の選考委員にお任せしているからだとも思います。たまには、激論の中で決まることがあるのです。繰り返しますが、どこからの圧力もなく“ひとえに優秀な作品を選ぶ”この心が、皆さまに通じて100年にも繋がるような応援があるからだと思うのです。

先月25日帝国ホテル孔雀の間で、第百六十九回の授賞式に出席しました。どうしても夏場は、お客様も少なくなりがちです。芥川賞は、市川沙央さん、直木賞は、垣根涼介さんと永井紗耶子さん、這ってでも出席しました。枯れ木も山の何とやらです!