閉門即是深山 484
古希、コキコキ!
満61歳になることを、還暦というらしい!色は、赤で、赤い座布団の上で赤いちゃんちゃんこを着て、これも赤い頭巾をかぶってお祝してもらうらしい。私は、もちろんそんなことをして貰わなかった。私は、今週77歳になった。古希である。この古希を皮切りに100歳までお祝いが続く、色は、全て黄金のようだ。今から75年くらい前の昭和23年に私の祖父で作家の菊池寛は、59歳で逝った。30歳代で売れっ子作家になり、35歳の時に文藝春秋を創り、9年後に芥川賞と直木賞を創設、このころには、文士の団体の2つをまとめて日本文芸家協会を設立、初代の理事長を務めた。
彼が逝ったのは、私が生まれて1年と9か月目のころだった。私は、10年以上前に父に「お爺ちゃんって、早死にだったんだね!」と、訊いたことがあった。「あの頃は、それが普通だったんだよ」父の答えである。今から70年の半ばころまで、60歳を超えられた人は、少なかったからお祝いの対象だったに違いない。赤いちゃんちゃんこ(今では、赤いセーターやチョッキ、赤いキャップに替わっているが)のお祝いは、『60歳以上までよく生きてこられたね』と記念する祝いだったのだろう!赤ならば、ハンカチでも座椅子でも買いやすいから、まだ大勢の人が61歳以上生き続けられたのだろうが、70歳の壁は、厚かったようだ!めったに70歳を無事に通過できる人は少なかったから、黄金の贈り物を送らなくて済んだのだろう!沢山残れば、身内は金がかかってしようないと思う!
今や平均寿命がかなり延びた!2022年の厚労省の統計では、女性が87.57歳、男性が81.37歳とある。こうなれば、赤いセーターなり、ちゃんちゃんこを着る還暦を81歳にすればいい。そうなれば、99歳で古希のお祝いになるわけで、古希のお祝いをして、次の年に目出度く(本人は目出度いか否かは、知らないが)パンパカパンと100歳になる。100歳になる後押しが古希になれば良いかも知れない。ただし、超高齢者が、若くなるわけではない!昔より長生きするだけで、爺さんか婆さんか見分けがつかなくなるのは、一緒だろうが。
実は、先日私が所属している日本文芸家協会の懇親会があった。日本文芸家協会は、小説家の「ゆりかごから、墓場まで」の団体で著作権管理もしてくれるし、実際に富士の裾野に墓もある。協会から案内状が届いた。場所は、東京會舘の7階の宴会場。今年は、貴殿は長寿会員となられるからお越しくだされ、会費はタダだよ!と名入りで書かれている。祖父が初代理事長を務めたからとは、聞こえがいいが、私は、この「タダだよ」に反応した。案内状が届いて、直ぐに「出席しまぁ~す!」と返事を書き、ローソンの郵便ポストに入れたから、もしかして1番最初に日本文芸家協会に届いた返信だったかも知れない。
宴会の前日、日本文芸家協会から電話があったが、ドラムの練習をしていた私は気がつかなかった。翌日だから、会の当日の朝、事務局に電話をかけた。「すみません、わざわざ電話をいただいて」事務局の女性が電話に出た。「あの~ぅ、本日の長寿会員の皆様の胸に赤いバラを付けさせて頂いて、写真を撮らせて…」きっと遺影の写真なのだろう!