閉門即是深山 430
誕生日の朗読会
4月5日の何日か前に俳優原田大二郎さんからLINEがあった。78歳になる誕生日の日に吉祥寺にあるSTAR PINE’S CAFÉで朗読会があるご案内だった。多くの俳優さん、落語家さん、講談師さん、知人からのお誘いを沢山受ける。が、暇を持て余していても、年金の身、お付き合いはしたいけれど、おひとりに付き合えば後が断れなくなる。だから、全部スルーしてしまう。ただし、ご招待は行くことにしている。タダだから!いえね、よく言われるでしょ!「タダほど高いモノは無し」と。
ご招待してくださり、足を運ばせていただくのは決まって祖父が書いた作品だけにしている。また「この日に来てくれ!」と書かれている場合、裏があり行かねば相手様に恥じをかかせてしまう。かならず、最後の御挨拶の時に壇上に呼ばれるからだ。これも嬉しい仕事、これによって100年も前に祖父菊池寛が書いた作品を蘇らせてもらえるからだ!
「朗読とパーカッションの新世界~藤十郎の恋 菊池寛 作~」パンフレットにはあった。
パーカッションは、佐藤正治さん。この人が凄い!打楽器、声を駆使して「地球の音」を追いかける人。ドラムの名手、といっても私の敲くようなあの形のドラムなど卒業している。2020年、4パートをドラムのみで構成した、ドラム組曲『NAKED~火水風地(KA,Sui,HUU,CHI)~』YouTube等で発表した人。楽曲提供、CM、映画音楽等を手掛け、シドニーオリンピック新体操日本代表の演技曲やNHKスペシャル『大アマゾン最後の秘境』の音楽担当のアーティスト及び音楽プロデューサーの正しく凄い人!音楽は、文字にするのが難しい、チャンスがあったら聴いて欲しい!
朗読された原田大二郎さんは、1944年4月5日横浜生まれ。明治大学卒業後、劇団文学座に入り、新藤兼人監督の映画『裸の19才』でデビュー。テレビドラマ『Gメン75』でその名が知れ渡った。映画『蒲田行進曲』、『敦煌』のほか、時代劇でも現代劇でもやりこなす名優!舞台『アンナ・カレーニナ』や蜷川作品『にごり江』『王女メディア』『マクベス』『夏の夜の夢』などに出演、意外や松竹喜劇にも出演されている。
4月5日、吉祥寺駅北口に降りた私は、言われた通りヨドバシカメラに向かった。その建物の先一筋を右に入ると、すぐ左にスターパインズカフェがあるという。駅を降りたあたりでLINEの通知音が鳴った。見るとカフェの写真が載ってあり「ここです」と書かれていた。
時間が来た。パーカッションの佐藤さんが洋服に紋付羽織姿で舞台に入ってくる。いろいろな音の出る小道具。「チューニングかな?」いや、これも演出の一種、和太鼓ではない!ドラムのフロアー・タムを和太鼓用のバチで敲く!舞台から音の波が、私の腹の中に耳を通して入ってくる。何かが回る、チッチッチもの凄い爆音ドン、ガーン!舞台裏から赤い布で肩を覆った大二郎さんが、マイクの前に立った!カ~ン、トントントントン「それは、京の…」ふたりのコンビネーションが私の心と体を菊池寛の情念から沸き立つ『藤十郎の恋』にのせて京都の春にタイムスリップさせて行く!
お梶は、藤十郎を照らす絹行燈を「ふっ!」と吹き消した!