閉門即是深山 325
コロナにも負けず
コロナ騒ぎが始まったころ、第百六十二回芥川龍之介賞・直木三十五賞が日比谷にある帝国ホテルの孔雀の間で行われた。
さすがに帝国ホテルは、物々しかった。宴会場の入り口には、アルコールの消毒液が並んでいる。ロビーにも、柱という柱の陰に消毒液の容器が置かれていた。1階のクロークに、荷物と愛用の帽子を預けて、エスカレーターで2階に上がった。授賞式には、少し間がある。会場に向かうお客もまだ少ない。
何かの用事が重なり出席できない時もあるが、出来るだけ8月の授賞式には出席することにしている。やはり、夏休みのシーズンで、出席者が少ないからだ。それでも、会場は一杯になるが、担当として毎年見ていた私には、気がかりだった。コロナ!この恐ろしい珍客が話題になっている日、お客が来るだろうか?2月でも緊急事態だ!枯れ木も山の賑わいと、どうしても出席しようと思っていた。
早めに受付近くに行ったのは、香川県の高松市菊池寛記念館に関係がある人がかならず出席するからだ!文藝春秋の社員や作家の方々に紹介をしておくと、高松市のイベントがやり易くなる。それで30分前に受付のあるロビーに向かったのだ。
まだ、混んでいないから、文春時代の仲間たちと立ち話が出来る。「いや~ぁ!心配しましたよ、芥川・直木、今回出来ないんじゃないかと」あちこちから、昔の仲間たちが私に近寄ってきて話てくれた。1メートル以内、禁忌な位置まで来て、唾を飛ばす。
「これだけは、出来ないと困りますからねぇ!でも、30分だけ終わりを早めたんですよ!」私は、心の中で「近寄るな!唾を飛ばすな!」それだけを考えていた。「君たちは、僕より若いから軽症で済むからいいよ!でも、今年74歳になる僕は、ちょうどコロナの餌食になる年なんだぞ!」言いたかったが止めた。
高松市からは、文化スポーツ振興会の局の部長さんが来て下さっていた。可愛い女性である。いいなぁ、女性が役所の部長になる時代なんだ!祖父の菊池寛が、今生きてたら手を叩いて喜んだに違いない!菊池寛は、女性の社会進出に積極的であった。彼が思った世が、今のような世の中か否かは判らないが、せめて思いが叶っている。
パーティー会場の前には、消毒液とマスクが用意されていた。
芥川賞の受賞者は、古川真人さん、『背高泡立草』(すばる 10月号)で受賞。1988年、福岡の生まれで、2016年発表したデビュー作『縫わんばならん』で芥川賞候補に、4回目で受賞した。直木賞は川越宗一さんの作品『熱源』(文藝春秋刊)が受賞した。授賞式の少し前に直木賞の選考委員伊集院静氏が急病で入院したニュースを見て心配したが、編集仲間の情報通から、どうも心配いらないとそのパーティーで聞き、ひと安心できた。が、選考委員の席に姿がないのは寂しい。委員のひとり、北方謙三氏は、どうも腰のあたりが悪く、歩くのも覚束ない。これは、座業の宿命で、多くの作家の悩みでもあった。
閉会前に私は、会場を後にした。帝国ホテルから歩いてすぐの所に私の住む場所の目の前に停まるバスの停留所があるが、夜8時過ぎになるとルートが変わるからだ。1年使えるシルバーパスを買ったのだから、使わにゃ、損、そん!
【お知らせ】
ラジオ日本『千花有黄の道いろいろ』(毎週月曜日21時(夜9時)~30分)にゲストとして呼ばれました。
放送日は、次の通りです(ゲストコーナー およそ10分)。
・4月20日(月)
・4月27日(月)
・5月 4日(月)
3週にわたって出演します。よろしければ、お聴きくださいね。