閉門即是深山 323
伊集院さん、緊急事態発生!
テレビのニュースを観ていたら、直木賞の選考委員をされている伊集院静さんが脳卒中で倒れ病院に運ばれたとコメンテーターが伝えた。
伊集院さんを担当したことはないが、ゴルフ仲間であった。彼の主催するコンペには、必ず誘われ、いつも奥様の篠ひろ子さんのグループに入ってプレーをしていた。近しい仲になって、仕事らしきこともしてきた。
確かに、彼は酒好きで特に日本酒をチビリチビリと呑んでいる姿を映像として時々想い出していた。毒舌家ではあるが、元は優しい。ハンパ無く優しい人なのだ。
彼は、賭け事が好きで、特に競輪狂と言われても不思議ではない。ずっと昔の逸話だが、関西の方だったと思う。そこで、スッカラカンになってしまった。まだ、レースも残っていたらしいし、本番は次の日であった。東京に彼は電話をし、お金を持ってきてくれ!と、言ったと聴く。相手は、すぐに飛行機で関西に向かった。バックには、何百万と入っていたらしい。
『浮世雲』という漫画が昔あった。伊集院さんのようなタイプの主人公であった。いつもトロンとした目つきで、いつも酒に酔っている姿で。しかし、伊集院さんは、正義感が強く、人に優しい。仕事も雑誌や新聞に小説やエッセイをキチンと書いていた。
が、担当編集者に聴くと、彼らの机の上には、歴代担当者が残していった伊集院さんの原稿が山と積まれていると言う。雑誌や新聞には、原稿を書くが本にさせてくれないのだ。本にするには、編集者がゲラという印刷にかかる状態の前の、原稿を活字にして刷り込んだ状態に著者校正をもらわなければ、本格的な印刷に廻せない。連載した作品などは、いろいろ間違いも多くあるから特に著者校が重要になる。どんな場合でも、昔と違って著者校なしに本を出版することは出来ない。頼んでも、なかなか伊集院さんは著者校をしてくれなくて、歴代の担当者の机の上に眠ることになる。
10年近くなるだろうか?伊集院さんの本が、新聞広告に頻繁に出始めた。書店にも並んだ。エッ!勤勉になったんだ~!その時私は思った。
ニュースでは、伊集院さんが倒れた後どんな様子なのか伝えてくれなかった。急に心配になった。
伊集院さんは、奥様と仙台に暮らしている。東京には、しょっちゅう来て駿河台のホテルに泊まるが、東京で倒れたのか、それとも仙台なのかも判らない。伊集院さんのオフィスに電話をしたが「只今留守にしています」が流れるばかりで、空しい!私が元編集者だった出版社の元担当にもしたが、連絡がつかない。
そこで、作家同士で一番仲好しの『新宿鮫』の作者、大沢在昌さんの家に電話をかけた。奥方が出た。奥方も結婚当初からの仲間で、互いに声でよく判る。「伊集院さんの件で在ちゃんと話したい」と言うと「私も今連絡するところだから、連絡するように伝えるわ」と言ってくれた。
しばらくすると大沢さんから携帯に電話があった。私が伊集院さんの様態が心配だと伝えると、思ったより軽い状態だと教えてくれた。目がさめた伊集院さんは、手も足も動いたという。なにかあったら、互いに連絡しようということになった。が、心配には変わりがない。
数日後には、芥川龍之介賞と直木三十五賞がある。そこで情報を集められるか?コロナも心配のひとつだった。