閉門即是深山 321
原田大二郎さん その2
「は、はい!」
お会いしたことも無い原田大二郎さんから12月に逢えないかとの突然の電話に返事をしてしまった。
「あの~ぅ⁉」「はい!」「で、何のご用件でしょう?」「?」
実に間が抜けている。もっと早い時点で聞くべきことを、はい!と返答した後に聞くなんて、間が抜けすぎている。が、その時の私の脳は、パニック状態であった。当然で、有名な方々には仕事上逢ってきたし、友人関係にもなってきたが、今回は、何かプロセスがたりないのだ。そうだ、普通だったら、誰か知り合いから、誰々さんが貴方に逢いたいと言っていて、何々を頼みたいから電話番号教えてもいいかい?の連絡があるものだが、それが無かった。
いや、あった。
私が勤める高松市菊池寛記念館の館長から、高松に居る誰々さんが、貴方の携帯番号を知りたがっているのですがお教えしてもいいでしょうか?とひと月ほど前に連絡があった。しかし、そのお名前は、原田大二郎さんではなかったはずだ。ということは、その間に入った誰々さんが私に何かの用事があるから、引き受けてはくれまいかとの電話を省いて、直接原田大二郎さんに私の携帯番号を知らせたのに違いない。きっと原田さんは、私が全て承知だと思って電話を下さり、私は誰からも何も聞いていないので何が何やらさっぱり判らず、いつものようにNO!とも言えず「はい!」と答えたのだろう。1月にお会いすることに決まった。
ちょうどその日は、ドラムの個人練習日だった。原田さんの都合のいい場所に行くと私が言ったら、車の運転が好きだから私を迎えに行くと言ってくれた。江戸川橋の交差点、まるでアメリカのGメンが乗るような黒いワンボックスが私の前に停まった。運転席から「ナツキさん!」と私を呼ぶ声がする。カッコ良い!ドラマのワンシーンに私が入った感じがする。交差点なので、私は慌てて助手席に飛び乗った。
車は、四谷を抜け、レインボーブリッジを渡り、お台場に入った。私の家の近くだ。たまに使うビルのレストラン、偶然だろうか?相手は、Gメンである。すいてるステーキハウス。入れ替わり立ち代わりにウエートレスがサインと写メを頼んでいる。カッコ良い!
話は、5月24日日曜日に高松市で原田さんが、祖父の作品『屋上の狂人』と『父帰る』を朗読してくれると言う。その前か後に私と対談出来ないか?とのことだった。お安い御用だ!「YES!」と返事をした。「ところで、ナツキさんは俳優になる気はなかったのですか?」これも突然に聞かれた。原田さんを見ていると何もかもカッコ良い!つい私は「ありますが、チャンスがなかったもので!」と答えてしまった。