閉門即是深山 315
不思議なイヴ
昨年、12月24日のクリスマス・イヴの日に私は新宿にいた。
例年は、この日、息子夫婦が家に来て家人の作る料理と私が買ってくる鳥の丸焼きを楽しむのが恒例だが、それを25日に変更して外出したのは、この50年無かったことだ。それには理由がある。毎年2~3回催されている春風亭小朝師匠の独演会『菊池寛が落語になる日』9回目が、この日新宿紀伊國屋ホールでおこなわれたからだ。“イヴ”なんて不思議な日にやるもんだなぁ!と思って気がついた。師匠は、どうせやるなら菊池寛の誕生日に合わせたかったのだろう。
実は、菊池寛の誕生日は明治23年の12月26日である。家族の中では「お爺ちゃんが、もう一日前に生まれていたらイエス・キリストと同じだったねぇ」と言っていたっけ。ただし、明治の世に今風のクリスマスが日本にあったか否か判らないけれど。
春風亭小朝師匠の独演会『菊池寛が落語になる日』は、毎回菊池寛の短篇が2作ずつ落語になっていく。前回までは、仲入りまではどの作品を使ったか伏せられていて、仲入り休憩時間にロビーで発表されていた。今回もそういうものだと思っていたが、違った。すでに配られていたプログラムの〈ご挨拶〉に刷り込まれていたのだ。小朝師匠の〈ご挨拶〉は、御夫婦や恋人同士で楽しく過ごすクリスマスイブにわざわざ……から始まっていた。
「本日は菊池寛さんの〈首縊り上人〉より〈大山寺〉、〈袈裟と盛遠〉より〈新・袈裟御前〉の二席を申し上げます。大山寺はほとんど原型をとどめておりませんが、引っ込みがつかなくなった人間の悲劇をテーマに、新・袈裟御前のほうは原作よりも一歩だけ踏み込んでみました。お楽しみいただけると宜しいのですが…」とネタばらしをしている。ははぁ!前回までは『入れ札』など、菊池寛作品を少しでも読んだ人はピンとくる作品が多く、短篇小説を小朝落語にすると「こうなるんだ!」と観客が別の意味でも楽しめるため「隠していたけど、今回の2作品はほとんどの方が読んだことのないだろう短篇だものなぁ」合点がいった。
紀伊國屋ホールは、満席だった。右隣は、若い頃からの知り合い、現在日本ペンクラブ監事で元講談社の編集者、その隣が日本ペンクラブの事務局の方、またその隣が文藝春秋の現役の編集者だった。不思議な取り合わせだ。訊いてみて判った!文藝春秋は、そろそろ創業100年を迎える。大正12年1923年1月に、祖父が35歳の時に創刊したのだから…!どうもその記念事業の一環として、日本ペンクラブと共にこの春風亭小朝師匠の『菊池寛が落語になる日』の出版を考えているらしい。クリスマスイヴに落語を聞いている自分が妙であった。
パンフレットには「春風亭小朝&笛吹かな 篠笛JAZZライヴ」を2月4日火曜日にヤマハ銀座スタジオで開催と書かれていた。全席指定2,800円(税込)とある。