閉門即是深山 311
突然
ドラムの自己練習でスタジオに籠っていた。73歳で、自己練を3時間もする人はなかなかいないらしい。
特殊なスタジオで、東京でも3~4軒しかないビッグバンド用のスタジオである。ここには、小さなスタジオは無い。ひとつきり、戸板一枚で雑誌の編集部がある。オーナーは、その音楽雑誌の編集長で、想像するに取材をしていてBIGBANDの連中から練習場が無くて困っているのを聞き、編集部を練習スタジオにしたに違いない。20名はゆうに入れる。ピアノ、ドラム、アンプ類やミキサーも揃っている。私は、特別にひとりでも使わせてもらっている。そのスタジオのオーナーが言ったのだ。ひとりで週に2回以上3時間もぶっ続けで練習をする人は、若い人でもいないらしい。まして、こちらは、70歳をとうに過ぎた爺だ。でも、褒め言葉として嬉しかった。
その日もドラムの練習をしていた。かなり高度な難しいフレーズが続く。集中するがあまり、スマホが鳴っているのに気が付かなかった。ビルの地下にあるスタジオから、表に出た。スマホがチカチカと点灯している。見ると何やら知らない番号からの電話だった。危険だから、かけ直すのをためらった!よく見ると、留守電が入っているらしい。1417の番号を押してみた。
「原田大二郎です。また掛け直します!」との声が入っている。何だろう、突然だった。思い出せなかった。原田大二郎は、文学座に居た俳優である。顔を思い出した。私の好きだったテレビドラマ『Gメン75』の7人のGメンの中のひとりとして出演していた。私は、このドラマの主題歌が好きだった。今もスマホに入れてあるしカラオケで下手な歌を唄う。しまざき由理が唄った『面影』である。NHKの大河ドラマ『新平家物語』の平重盛役にも出ていたし、私が雑誌連載で担当編集者を務めた池波正太郎氏の『鬼平犯科帳』にも出演していた。
なに?ふと思い出した。その前の週に、高松市菊池寛記念館の館長から電話があったのを!
何か、来年5月頃に高松の劇団マクダレーナが菊池寛の作品『屋上の狂人』と『父帰る』の舞台をやるのだという。そして、その劇団の主催者に私の携帯番号を伝えていいかと。しかしその後、何の連絡もなかった。オファーも無い。忘れていたのだ。とりあえず、原田さんに電話をかけた!お会いしたいと言う。12月に逢う日を決めようと話した。その夜、私のスマホが鳴った。劇団の主催者からだった。「申し訳ない!」と謝られた後に、来年5月24日日曜日か6月7日日曜日にか、まだ決まっていないが原田大二郎さんとふたつの作品の間の舞台上で対談をしてくれないかとのオファーであった。これで正式に原田大二郎さんと逢って話が出来る。
12月6日金曜日、ワハハ本舗の新宿ゴールデン劇場『バラエ亭・長谷川伸』の出演依頼もギリギリだった。本当に芝居をする人達は、ギリギリが好きだ!只今開幕です!と。