閉門即是深山 267
芥川賞と直木賞(第160回)
今年、1月16日水曜日の夜に第160回芥川賞・直木賞の受賞発表があった。ちょうど芥川龍之介氏のお孫さん芥川耿子さんから私宛の葉書が着いた日だった。
今回の芥川賞の受賞者は、二名。『群像』12月号に掲載された39歳の作家上田岳弘さんの作品『ニムロッド』と『新潮』11月号に載った町屋良平さん35歳の『1R1分34秒』である。
直木賞は、粋な白い中折れ帽と髭がよく似合う1977年生まれ、今年41歳の真藤順丈さんの作品『宝島』(講談社刊)であった。真藤さんは、これまでも日本ホラー小説大賞や今回の受賞作品『宝島』で山田風太郎賞などを授賞されるなどのベテランで、選考委員のおひとり林真理子さんは「沖縄のつらい歴史を重くではなく、また、暗くでもなく、突き抜けた明るさで書いた。平成最後の年の直木賞にふさわしい作品」と評した。受賞者真藤さん当人は、東京生まれ。「沖縄の方言では無くてならないので、苦労した作品」と言った。
芥川賞授賞の上田さんは、以前三島由紀夫賞も授賞している。受賞作品『ニムロッド』は、IT企業で働く男性が主人公。「大きな世界観と日常的な出来事をつなげる手際の良さ」が、今回の授賞につながった。町屋さんの『1R1分34秒』は、弱いボクサーをめぐる青春小説。選考委員の評は「徹底してボクシングをする若者の日常やトレーニングを描き込んだところが、票につながった」らしい。
私の祖父・菊池寛が小説を書き出した頃、小説の新人賞など無かった時代である。芥川龍之介も久米正雄も横光利一も、当時一番の流行作家夏目漱石の早稲田の漱石山房で行なわれる「木曜会」に足繁く通った。帝大の学生が創る同人誌『新思潮』も漱石に自分たちの作品を読んでもらうためだった。大物作家の推薦がなければ作家としてデビュー出来ない時代だった。
京都にいた菊池寛は、波に乗れなかった。出遅れた。「才能さへあれば、作家になれなきゃおかしい!」苦労して作家デビューを果たした祖父は、「平等」を元にした新人賞を創った。親友作家の名前を冠した芥川龍之介賞と直木三十五賞である。両賞共に年2回ある。
第110回だから、50回前、25年前に私の親友大沢在昌さんが直木賞を授賞した。『新宿鮫』というハグレ、キャリア刑事が主人公の小説だった。警察官小説だけに第110回か、と言われたものだった。直木賞を授賞後の彼は、精力的だった。大きな賞を総舐めにした。いろいろなシュチュエーションにもチャレンジした。私の好きな作品のひとつに『B・D・T(掟の街)』がある。読んだ興奮で彼に手紙を書いた覚えがある。それに並べて『天使の牙』がある。私は、あまり作家に評を書くことをしないのだが、この2作は感想を書いて投函した。
この世界が蘇った。朝日新聞出版から刊行された大沢在昌の著作『帰去来』である。面白い!新受賞者に負けじと先輩たちは、頑張っているのだ!