スポーツドリンク | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 244

スポーツドリンク

スポーツドリンクは、いつごろに出来たのだろう?私が若い時分には無かった。
それでも「ポカリス」と誰かが言ったら「ポカリだよ」と11年前に急逝した長男が訂正していたから、もうかれこれ20年は経っているのではないだろうか? 最初に飲んだ時「美味しくはない」と私は思った。不味くは無いが、美味しい飲み物では無いが、第一印象だった。

今年は、何本くらいスポーツドリンクを飲んだのだろう。
私は、趣味でドラムを敲く。趣味で、ふたつのバンドのドラマーを掛け持ちしている。この夏、ふたつのバンドにそれぞれイベントがあった。ひとつは、6月にやるはずのライヴが私の緊急手術のために延期になり、暑い7月に予定を変更した。もうひとつは、高校の終わりに結成したバンドで、何人かが鬼籍に入り、作りなおしたバンドである。新メンバーのサイドギターは現役のドクターで、毎年夏に薬の業界の関係者を招待して納涼食事会をしていたらしい。毎年同じじゃ能が無いということで、今年は、ライヴハウスを借り切ることにした。若い薬の営業マン、営業レディ、看護婦さんは、たまったものじゃないだろうな。いくら京都で有名な弁当が出るといっても、平均年齢が70歳に近いヘタクソ素人バンドの曲を聞いて、偽の笑顔を作って、手を叩かなきゃならないんだ!それもクソ暑い中で!私だったら、そう思う。その辛そうな笑顔、強制された拍手の基に演奏する我々も辛い。
昭和30年代から40年代に流行った曲は、若者に新鮮に聴こえる。というが、いまさら私だって『麦と兵隊』や『蘇州夜曲』を聴きたくない。あのころ夢中になって聞いていた江利チエミや雪村いずみ、美空ひばりの三人娘より、何とか48やモームスの方がよっぽど良い。
それを、押しつけて聴かせるのだから、暑さと共に苦労する。

この4年間、有名ドラマー3人の先生の個人レッスンを受けた。4年で、1600時間ドラムの前に座った計算である。そのつどスポーツドリンクを買って足元に置いた。冬場は、2~3時間でも中身は半分残る。もったいないと思いながらも捨てることになる。持ち帰っても普段飲むには、美味くないのだからしようがない。
しかし、この夏は、スポーツドリンクを美味しく感じた。喉が感じたのではない。ひとつひとつの細胞が感じたのだ。好きなコーラは、喉が旨さを感じるのだが、細胞は無反応だ。スポーツドリンクは、水分に飢えた細胞たちが身体を振るわせながら飲んでくれる。この夏、ドラムの練習の時や、ライヴの時、足元に大きな徳用サイズのスポーツドリンクを置いた。