根競べ| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 242

根競べ

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に正式に登録されたという。確か、2001年に「登録を目指す会」が発足されたと聞いたから、17年もの月日をかけての実現だった。根競べであった。我々にとっては「潜伏キリシタン」というよりも「隠れキリシタン」といった方が馴染み深く、ピンとくるのだが、隠れキリシタンという名称は差別用語に当たるのであろうか?「隠れ」の方が自主的であり、「潜伏」の方が何か犯罪者扱いの言葉のように感じるが。

キリスト教が日本に伝来した1600年ころの日本の人口は、今の10分の1くらいであったろうから1200万人位だっただろう。このころ50万人近くの信徒がいたらしいから、日本人の約4~5%がキリスト教の信者だったのだ。徳川家康による禁教令によってキリシタンの殉教が、そして仏教徒を装った隠れキリシタンの歴史が始まった。今回の世界文化遺産に、大浦天主堂が含まれる。高校時代に仲の良かった友人の実家が長崎市内にあったから、彼の家に泊まりながら大浦天主堂に行ったことがある。この天主堂は、日本二十六聖人にささげられた聖堂である。江戸時代幕末の開国後の元治2年(1865年)に建てられた日本に現存するキリスト教の最古の建築物である。

もうひとつキリスト教に纏わる最近のニュースも根競べであった。バチカンラジオ放送局によれば、6月29日、フランシスコ・ローマ教皇は聖ペトロ大聖堂で公開コンチストーロ(枢機卿会議)を開催して、11人の80歳未満の枢機卿と3人の80歳以上の枢機卿の計14名の新枢機卿の叙任儀式を行なった。
バチカンでは、80歳以上の枢機卿には教皇選挙権がない。教皇選挙権すなわちコンクラーベの投票権を持てるのは、80歳未満の枢機卿のみである。フランシスコが教皇になられた時、テレビのニュースに煙突から煙が出るのが「決まった合図」とテロップが流れ、それが映し出されたのを覚えている方も多いと思う。また、映画にもコンクラーベを題材にした作品があった。今回、この根競べ、いやコンクラーベの投票権を持つ新枢機卿のおひとりに日本人の神父が入った。前田万葉大阪教区の大司教である。

バチカン・聖ペトロ聖堂で、教皇から前田大司教は、枢機卿のシンボルでもある緋色の帽子ベレッタと指輪を手渡され、枢機卿となった。前田神父は、69歳、長崎の出身である。どうも潜伏キリシタン、隠れキリシタンの血を受け継いだ方と聞いたような気がする。枢機卿に日本人が任命されたのは、前田新枢機卿で6人目である。サッカーやテニス等のスポーツ界ばかりでなく、日本人の「根競べ」の強さを世界の人々にもっと知ってもらいたいものだ。