香川菊池寛賞に| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 223

香川菊池寛賞に

その日は、ほぼ晴天だった。
私は、年に3回は高松に行く仕事がある。香川県高松市に、祖父・菊池寛の記念館があるからだ。高松の中心街から徒歩で15分くらい行った所にサンクリスタルという市営の図書館がある。その建物の階上に記念館がある。

めずらしく私は、飛行機で行くことにした。羽田は、ほぼ晴天だった。時間通りに搭乗手続きが終わり、高松行きの飛行機が滑走した。不思議なもので、幾度乗っても飛行機は恐い。ふわっと身体が浮く気がした。飛行機が飛び立ったのだろう。東京湾が、眼下にちらりと見える。少し、カタカタと揺れた。陸地の上を飛ぶようである。飛行機の下にちぎれ雲が見える。その下の陸に雲の影があった。こんなに天気が良いのに、雲の下は、曇りなんだ。当たり前のことなのだが、今、気がついた。小さな窓から、雲の上の晴天を見ていると眠くなる。眠っては、いけない。せっかく飲み物をくれるんだもの。それもタダで。
そう言えば、出発ゲートで体中検査を受けた。腹が出て来たからベルトではなく、サスペンダーを使っている。それが、きっと反応したのだろう。サスペンダーを見せても係官は、体中を弄る。ついには靴も脱がされた。何もしていないのに、あれだけは恐い。外国で、トランジットする時も、搭乗手続きをする時も恐い。カチャカチャと音がする。今は、キャビンアテンダントとよぶスチュワーデスのふたり組みが飲み物を配りだしている。

機内に入る前、高松市菊池寛記念館で働く皆に茶菓子を買った。今回の目的、香川菊池寛賞の主催者である菊池寛顕彰会の方々にと手土産を買った。大変お世話になった方へのお菓子も買った。それでもまだ時間は、充分にあった。そこで各カード会社がタイアップしているラウンジで珈琲を飲むことにした。ビックリした。重厚な雰囲気を醸し出していたその一角が、街場にあるチェーンのコーヒー店と同じようになっていたからだ。以前は、シャワー室もあった。ソファーのある喫煙席もあった。それが何の変哲もない無い珈琲店になっていた。ラウンジとは、言えまい。高い年会費を払ってカードを取得したのも、一部は、こんなラウンジを気儘に使えるからだったとも言っていい。ちょっと前までは、昔より重厚では無くなったものの、出発前に、これから飛行機に乗るぞというエリート意識をかき立ててくれたラウンジが、クレジット・カードとともに変貌してしまった。今は、そんな事を望む時代では無いのかも知れないが。
帰りは、新幹線で帰ることにした。ずっと飛行機の方が安いのだが。どうせなら「そうだ。京都、行こう!」