閉門即是深山 220
え~エ、馬鹿馬鹿しいお噺を一席
こう言ったか、どうか忘れたが。
2月1日の木曜日、東京は、また雪が降るかも知れないという予報で静かだった。年寄りは、転ばぬ杖と早々に家路を急いだに違いない。夜は、しんしんと冷えていた。が、新宿だけは違った。
雪よこんこん、来るなら来い!犬でも、猫にでもなってやろうじゃん!若者たちでむせ返っている。駅ビルのレストラン街も満員で、先を急ぐ私は、並んで待つわけにもいかず、エイ、ヤッ!とばかりに好きでもない料理を出す、空いてる店に入ったと思いねエ!不味かった。嫌いな料理だから、かなり不味かった。が、我慢した。
地下に潜り、地下鉄の改札を横目で見ながら紀伊國屋書店に向かう。書店の地下街は、旨そうな飯屋が並んでいる。チィつ!ここで喰えば良かった。思い出せなかった。まだ、井上ひさしさんがご存命の頃、彼が書き下ろした芝居をここに観に来た。年に何回も足を運んだ。この地下の飯屋にも、そのたびに入った。だが忘れていた。どうも最近、アブナイ、認知症が心配である。
5分早かった。4階でエレベータを降りると、そのまま長蛇の列の最後尾である。席の切符は、招待で受付で頂ける。また、一番良い席だろう。通路に面したド真ん中。どうせなら白鴎、幸四郎、染五郎、三代同時の襲名歌舞伎の歌舞伎座の席だったらもっといいのに、何て失礼なことも考えてしまった。
紀伊國屋ホールは、好きである。狭いし、古いが、劇場の趣もあるし、想い出も詰まっている。やはりド真ん中。席が硬いのでスポンジのクッションを二枚借りて、お尻に敷き、背中に当てる。
「携帯や音の出るものの電源をお切りください!」の放送の後、
ドドン、トンチキチ、トントコトン
緞帳の降りたまま、出囃しが鳴った。いいなぁ!昔、ずいぶん子供の頃、人形町に末広亭という小屋があった。私は、小学校の中頃。客は私だけで、噺家と客の私、ふたりだけの時もあった。にらめっこ落語であった。下足番もいた。
チチン、トトトン
春風亭小朝師匠の独演会である。『菊池寛が落語になる日 Vol.6』。もう祖父の作品が12篇も落語になったのだ。今回の演題は『はごろも』と『楊貴妃』。『はごろも』は、菊池寛の短篇『羽衣』を落語にしたもので、『楊貴妃』は『亥宗の心持』である。『羽衣』は、「はごろも伝説」を菊池寛流に作りかえた作品である。最後は古典落語『芝浜』だった。良かった!
次回の「Vol.7」は、この新宿紀伊國屋ホールで12月26日の水曜日、18時半からあるそうな。