閉門即是深山 217
新喜楽
1月の火曜日だったと思う。カレンダーからすると16日だろう。
夜、携帯を覗くと第158回の芥川龍之介賞と直木三十五賞の決定の知らせが入っていた。そうか、今日だったか。私は、急いでテレビをつけた。
画面には、日本文学振興会のひとが壁に受賞者や作品名が書かれた大きな紙を貼りつけている。周りは、記者やカメラマンたちで満員電車の中のようである。
この部屋は、築地市場の駐車場の向かい、朝日新聞の本社側にある二階屋の料亭新喜楽の二階に登って右にある洋間らしい。決定は、意外に早かった。こんな時は、圧勝のことが多い。最初から選考委員の気持ちが一致している場合である。そのような時でも投票は二度行なう。まず、一度目の投票で、圏外の作品を落として、二度目の投票で1作品または2作品の受賞作を決める。この間、各選考委員の意見を聞かせて頂くわけだが、反論が無く全員一致の場合は、時間がかからない。意見が割れた場合は厄介である。以前は、討論が延々と続いたらしいが、両賞の知名度が上がり、社会性をおびた頃からマスコミから当日のニュースに間に合うようにやって欲しいと言われだした。選考会のスタートの時間を早めたが、なかなか決まらない時もある。担当者が焦りに焦る時間帯だ。NHKのニュースは夜9時からである。10時頃からテレビ朝日の「報道ステーション」が始まる。11時からは、各局のニュース番組である。編集の時間もあるから8時には決めたい。が、選考委員も受賞者を出したくて必死なのだ。そこに、焦らせて「受賞作なし」の判定でも出れば目も当てられない。
芥川賞は、「文藝冬号」に掲載された若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』と「新潮11月号」に掲載された石井遊佳さんの『百年泥』に決まった。『文藝』という文藝誌の歴史は、古い。昭和8年に改造社という出版社が創刊した。改造社が倒産した後、河出書房が引き継いだのが昭和19年(1944年)であった。昭和32年に休刊したが、37年に復刊、1980年から季刊誌になった。文藝春秋の『文學界』、講談社の『群像』、新潮社の『新潮』、集英社の『すばる』と共に五大文芸誌の中の一冊である。
直木賞は、門井慶喜さんの講談社の本『銀河鉄道の父』が受賞した。良かった!文藝春秋の本がひとつも受賞していない。こんな時があっても良いのだ。芥川賞・直木賞が昭和10年から83年間、ずっと続けてこれたのも、社会性をおびて国民的な関心事になれたのも、選考が「絶対に公平」であったからだ。
門井さんの会見の第一声のように、受賞者の三人には「風がきた!飛ぶだけだ!」と思って書き続けて頂きたい。