友よ!| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 216

友よ!

「あなたは、ひとりっ子だから沢山友達をつくっておきなさい!」
両親からの言葉だった。
父からは、それに足して「同い年の友人、ちょっと若い友人がいいぞ!年上は、お前が年を取った時にはこの世に居ないのだから」とも言われた。私は、両親から勉強のことなど言われた覚えが無い。記憶では「友人をつくっておけ!」だけである。
幼いころは、近所に住む従妹ばかりと遊んでいた。

学校に入ると、よく一緒に遊ぶ友人が出来た。彼は、現在も一族で営む台湾の大企業のグループで世界中を飛び回っている。年に何回か帰国していると思うが、ロスと台湾の往復がほとんどであるらしい。彼の1度目の結婚の時、披露宴の司会をさせられた。千人もの客人の前で司会をしたのだから、あがってしまったのだろう。なにも覚えていない。何年か前に彼から逢いたいとの誘いがあった。彼もカップル、私も家人を連れていった。4人の食事会だった。どうもこれが彼にとって2度目の結婚式だったようだ。僕を友人代表と認めてくれたらしい。その後、何回か会ったが、1~2年にいっぺんぐらいだろうか?
大学時代には、中高時代の仲間とバンドを組んだ。それまでにも多くの友人を作ったのだが、バンド仲間との関係は深く濃かった。皆、卒業して各々の仕事を持った。私も出版社に入社したので、大層忙しかった。週に何べんも合っていたバンド仲間とも会えない年月が続いた。そのころになると仕事関係の仲間が増えていった。

そして、現役を退きOBとなった時、昔のバンド仲間たちが再出発を希望した。あの学生時代の仲間のふたりは、先に逝ってしまったけれど残る3人で「和をつくろう」としたものだった。仕事仲間は、仕事が終わると絆が絶えていく。何も利害関係がなかった友は、ふっと姿を現す。そんな友が良い。いつでも居場所を作ってくれるからだ。
昨年の11月、バンドの練習の後に次の練習日を決めた。どうせやるなら忘年会込みでやろうよ!と誰かが言った。やるならスタジオじゃなくて近くのライヴハウスを借りてやろうやと、また誰かが言った。先に逝った仲間たちの替わりにふたりがサイドギターとキーボードを担当してくれている。ふたりは、われわれより若い。我々旧友は、共に70歳を超えている。当日、三茶のライヴハウスには、20名の人が集まった。飲み物、食べ物は、持ち込みである。全員連れ合いも集まった。もう年齢は関係なくなった。友人たちと楽しむ、これ以上の至福の時は無かった。
ライヴハウスのミニライヴ、癖になりそう!