閉門即是深山 210
菊池寛賞とは?
先週の金曜日、都内の某有名ホテルで第65回菊池寛賞の贈呈式が行われた。受賞者は、4名と2団体である。
まず今回の受賞者と受賞理由を紹介する。
●『夢枕 獏氏』
「陰陽師」、「餓狼伝」、「キマイラ」など映像化、マンガ化が絶えない人気シリーズに加え、山岳、冒険、時代、SF、幻想小説など多彩な文筆活動で、四十年にわたり読者を魅了し続けた
●『映画「この世界の片隅に関わったチーム一同』
戦時下の広島・呉を舞台に、市井の日常を、緻密な時代考証と見事なアニメーション表現で活写。商業ベースに乗りにくいテーマを資金集めに苦心しながらも製作、大ヒットに結びつけた
●『チューリップテレビ報道制作局』
富山市議会の強引な議員報酬引き上げへの不信から、地道な調査報道で政務活動費に関する不正を暴く。市議十四人を辞職に追い込むきっかけとなり、全国の自治体での政活費チェックへと繋がった
●『奥本大三郎氏』
文学と科学の幸福な調和である十九世紀博物学の不朽の名著・ファーブル『昆虫記』。詩情に溢れ、時に難解ともいわれる全十巻二十冊の大作を、三十年の月日をかけ見事な日本語に移し替えた
●『浅田真央氏』
世界選手権とグランプリファイナルで計七度の優勝、バンクーバーオリンピックでは三度トリプルアクセルを成功させ銀メダルを獲得。その後も氷上での華麗な演技は、残した記録以上のものを人々の心に刻んだ
●『岸 惠子氏』
国内のみならず欧米の映画界でも活躍。市川崑ら多くの名監督と日本映画の一時代を築き上げた。エッセイ、ルポルタージュ、小説と、作家としても注目を集め、表現者として存在感を示し続けている
以上が、第65回目になる菊池寛賞の受賞者とその受賞理由である。
戦後出版された『菊池寛と日本の文壇』の中に河上徹太郎が、菊池寛賞についての懇切丁寧な解説が載せられているので引用してみる。
「菊池寛賞というのが戦前にもあったし、今もある。しかし性格はまるで違っており、戦前のは菊池氏自らきめたルールで、四十五歳以下の文学者が選者になり、四十六歳以上でその年いい仕事をした人に授賞することになっていた。つまり中堅が老大家を顕彰するわけで、四十五という年が今から見るとまるで若いことも眼につくが、同時にこの老大家の不遇を保証する養老金の必要もあったわけである。ところが当時の受賞者は、故人を除けば今は一人残らず純文学畑で文名高い芸術院会員であることも興味ある現象である」