追っかけごっこ| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 202

追っかけごっこ

夜10時50分、聞いたことのないピポピポと異常な音が宿の部屋に響いた。なんだ、今の音は?また異常な音が部屋の2カ所と共に、テレビからも鳴り響いた。あの関東を3月11日に襲った大地震の時に鳴り響いていた警告音とはちょっと違った優しい警告音らしい。テレビと私のガラ携から同時に流れていたのだ。私は、もうどこにも売っていないであろう古道具の携帯電話のメール受信画面を開いた。

タイトルには、避難勧告 発令とある。エリアメールを開くと、
「こちらは京都市です。土砂災害発生の危険が高まったため、平成29年9月17日22時50分、左京区花脊学区、右京区黒田学区の土砂災害警戒区域等に『避難勧告』を発令します。この地域及び周辺にお住まいの方は、土砂災害の指定緊急避難場所に避難してください。外が危険な場合は、建物内の安全な場所に避難してください。指定緊急避難場所は、花脊小・中学校、黒田基幹集落センターです。(京都市)」と、ある。

先日、猛威を振るった台風18号が沖縄を過ぎ進路を北に変えようとする頃に、前回のブログに書いた高松で仕事があった。私は、えい、儘よ!という気持ちで東京から新幹線に乗った。高松での仕事は、次の日の朝である。高松の定宿に8時50分に車が迎えに来るという。台風の接近もあり飛行機はやめていた。また、私は高松行きを出来るだけ新幹線とマリンライナーを乗り継いで行くことに決めている。ニュースでは、台風18号は相当大きいらしい。台風に向かって行くのは、やはり嫌だが、仕事とあっては仕方がない。文学展は、休んでもいいかも知れないが、その後の講演は聴衆がいるし、準備のために何日も前から動き廻っているひとたちのことを考えると少々気が引ける。東京の天気も曇りだし、乗り換えの岡山も雨は降っていない。高松に着いても、雨の降る様子がない。翌日、仕事を終えて菊池寛顕彰会の会員と昼食を摂り、急ぎ駅に向かった。雲は、動き廻っているが、雨は、まだのようだ。そして、京都に向かった。せっかく高い電車賃を払うのだから、高松の帰りは、いつも京都に二泊することにしている。着いた日も翌日も晴天とは言えないまでも、台風の影もない。何を怯えていたのかしらん。と、思った京都の二泊目の夜中の10時50分だった。

自分の宿が嵐山で渡月橋まで歩いて5分であることは知っている。しかし、ここが左京区なのか右京区なのか、また花脊学区なのか黒田学区なのか、知識は無い。そういえば4年前の同月同日、同じ台風18号が渡月橋の中洲にある有名な料亭や料理屋に甚大な被害をもたらしたことを思い出した。
私が寝てる間に、台風は頭上を過ぎて行った。翌日は、台風一過である。