閉門即是深山 160
師走
エレ~ェことになった。
このブログの配信編集者からオフィスに出勤するなり携帯に電話がかかってきたのだ。それも今日は、木曜日だが明日金曜日に掲載する原稿が届いていないという。
それもそのはず、書いていない。
私は、いつも「汲み置き」という原稿を用意しておく。「汲み取り」では無い。「どの出版編集者」も作家に汲み置き原稿を頼み、載せるはずの原稿がその作家が病気なり、重大な用件なりで原稿が書けないときに使うために用意しておくのだ。私は、私がサボるために「自分汲み置き原稿」を書いて当該編集者に送っておく。ぎりぎりが嫌なのだ。書きなれた有名作家ならば「よしきたドッコイ、2時間待ってくれ、直ぐに書くから!」というだろうが、ともかく日本文藝家協会にギリギリの線で認めてもらった「はしくれ」だから、よしきたドッコイなんて言えない。書くことを思いつくに時間がかかる。まだ汲み置き原稿が残っていると勝手に思っていた。
今日は、来年に出版される高松市の『文藝もず』の清書をするつもりでオフィスに来た。その後にドラムひとり練習のためのスタジオに予約してある。ちょうど1時間ほどでオフィスを出なければ間に合わない。
これには原因がある。
私の住む豊洲のマンションの別の棟に部屋が空いたのだ。豊洲地域は、今とても人気があるらしい。高層マンションが乱立している。私が住むマンションは、そんなブームが来る前に建てられた高層式マンションだが、ここは後から建てられたマンションより人気があるようだ。
新しいマンションの中にも知り合いがいて、見せてもらったことはあるが確かに今風で「ホテルライフ」スタイルになっているけれど、なんとなく寒々しい。ベランダが無いマンションも多く、ホテルや事務所用の建物のようで外見は素敵だが、住んでいる気がしない。生活感がないのだ。
その点、偶然空きが出て私が住むようになったマンションは「人が生きている」という感じがある。場所も元石川島播磨重工業の地だったので、江戸湾に面している。立地や景観が良いのか最近のテレビドラマによく使われるようになった。ポスティングされた案内には、よくいついつ何テレビの撮影隊が入りますのでご迷惑をおかけします!などの告知が入っている。外の海辺の景色もよく、テレビコマーシャルにも使われている。
いや、自分の棲家自慢では無い。
我々ももう老人だから、次男夫婦もこの敷地の中に住んでもらいたいなぁと日頃から思っていた。
敷地内には3棟マンションが建っていてA棟、B棟、C棟と名前がつけられ、全部で1500室もあるようだ。平均で一部屋3人くらいで計算すると、4~5000人が住んでいる。設備が素晴らしく良い。棟内にはコンビニも喫茶店もあり、住人だけで商売が出来ているようだ。喫茶店なぞ珈琲が一杯で150円と安い。とにかく管理が素晴らしいのに管理費が安い、積立金なるものも安い。部屋が多いからひとり頭の金額が安い。
20数年前からこの近くに用事があり、よくこの付近を車で通っていたが、その頃は、工場街で美しさも何も無かった。この10年で一変したのだ。
最近では、広尾や麻布十番など高級地域と同じくここに住む住人にセレブ的な「トヨ何とか」という名が付けられたと聞く。住んでいる人たちは、一般の東京都民で、乳母車を押す若い夫婦が多い。けしてセレブとも思えないし、私もセレブとは縁遠い。しかし、テレビの魔力か、どんどん値が上っているようだ。住むためにまだ高級地と言われる前に買った私だが、売る気などない訳だから上ろうと下がろうと関係がない。
しかし、先ほども書いたが私の住むマンションは特に人気があるようで、近くのマンションを買い、住んでいる我がバンド仲間もやっと3年間待って空きをみつけて買ったらしい。12月に越してくると言っている。
さて、原稿を書き忘れた言い訳だが、突然手頃な部屋が空いたのだ。それも、息子が買える金額だった(私も少し応援した)。先方も急な引っ越しのためかディスカウントしている。また、子供や両親のいる家族には狭いのかもしれない。このマンションには、小さな部屋が少ないから出物が無かった。それが、出たのだ!急いだ、売買契約をし、息子はローンを組み、引っ越しのサカイに連絡をし、今まで住んでいた賃貸マンションの契約を破棄し、掃除をし……とにかくあらゆることを手伝った。見ただけの知らない街について息子夫婦を案内もし、引っ越しをした日は、飯も作れないだろうから、引っ越し蕎麦がわりに家族で食事をして、私が奢った。これで、ひと安心だ。スープの冷めない距離で互いに干渉しなくて済み、老人が倒れれば救ってもらえるところに家族がいる安心感。
これで、私の一生の務めが済んだと思った。
いつ早逝した長男があの世から迎えにきてくれても構わない。人は、120歳も150歳も生きられると医療の博士はいうが、寝たままで生きていても仕様がない。最近は、やたらに長男に逢いたくなった。次男と家人さえ困らなければ、いつでも長男に逢いにいける。
準備は整ったが、そんなことをしていたらこのブログを書く時間も無くなったし、書くことも忘れてしまった!合掌!