祖父・菊池寛のこと| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 139

祖父・菊池寛のこと

先日もこのブログに書いたが、私は、60歳を過ぎてから毎週のようにブログを書いている。総合したタイトルは、2度、3度変えた。文藝春秋を退職して二つ出版社を変え、今のディジタルアーカイブズに落ち着いた。行く先々でメインタイトルが変えてきた。

今回のタイトルの「閉門即是深山」は、「讀書随處浄土」と続く漢詩で、祖父・菊池寛が好んで色紙に書いていたから、その前半の部分を私がパクってタイトルにした。意味は書いて字の通り、「扉を閉めればそこは深い山の如き静けさである。読書はどこでも出来る幸せ浄土のようなものだ」とでも訳そうか。
今までも、私のブログにはよく「祖父・菊池寛」という名が出てくる。私は、何年か以前に祖父についての単行本を何冊か書いて出版した。

今回は、あるパーティーの席上で何人かの編集者仲間や渡辺淳一さんのご遺族の方たちから「最近、あなたはブログを書いてないの?結構面白く読んでいたのに」と言われ、慌ててピックアップしやすい状態に変えていただいた。それで、そろそろ昔読んでくださっていた読者も開きやすくなったと推察されるので、何週かに渡って菊池寛と菊池一族のことを書いてみようと思う。
菊池寛の小説は、戯曲が73編、小説が273編あるが、この春から春風亭小朝師匠が落語化してくださり、口伝で残してくださるようだから、祖父の戯曲や小説を残そうとしてきた私の仕事は、一段落した。肩の重荷が少し減ったような気がする。

この原稿を書きながらふと思い出したことがある。以前までブログに使っていたタイトルの名前だ。
『話の屑籠』というタイトルだった。大正12年『文藝春秋』は、祖父の手で創刊された。そして、その中のコラムのページとして「話の屑籠」は、あった。このコラム欄は、大層人気で祖父・菊池寛が続けて書いていた。
昭和9年2月に直木三十五が病死した直後の雑誌『文藝春秋』の「話の屑籠」に菊池は次のように書いている。

「池谷(信三郎)、佐々木(味津三)、直木など、親しい連中が、相次いで死んだ。身辺うたゝ荒涼たる思ひである。直木を記念するために、社で直木賞金と云ふやうなものを制定し、大衆文芸の新進作家に贈らふかと思つてゐる。それと同時に芥川賞金と云ふものを制定し、純文芸の新進作家に贈らふかと思つてゐる」

以上は、翌年から創設された芥川龍之介賞と直木三十五賞への想いを書いたものである。

また、『文藝春秋』創刊10周年の年の「話の屑籠」には、
「『文藝春秋』創刊以来の月日は、短くまた長く感ぜられる。最初は趣味で道楽で始めたことが、今ではビジネスになり、原稿も最初は書きたいことだけをかくことにして置いたのが、今では毎月ゼヒ書かねばならなくなったし、社員4~50名の生活を負担しているから、経営の苦心もしなければならず、社員に仕事を与えるために、始める新雑誌がうまく行かなかったり、創刊当時に比べては煩わしいことが多くなった」

実にざっくばらんに読者にメッセージを送っている。
私も彼にあやかろうと自分のブログに『話の屑籠』という題名をつけた。このタイトルは、捨てたわけではなく、一時休止したつもりである。そして、毎週更新をしている今のブログには、上記した意味合いで『閉門即是深山』と名付けた。なんとなく読んでね、と私が読者に語りかけた思いが通じれば有難いと思う。
ついでに書けば、丸谷才一氏は、ジャーナリストとしての菊池寛の二大発明として、座談会と芥川賞・直木賞を挙げている。

6月に入って、私は日本ペンクラブの仕事として、川崎の生田の山の上にある専修大学の生田キャンパスに通っている。昨年は、5月ころに2回講義を持った。講師は、日本ペンクラブが派遣する会員の何名かで持ち回りである。ほとんどが、現役を退いた人たちであるが、ベテラン揃いで、詩人や俳人もいれば、作家や編集者、名優や有名タレント、元広告会社の凄腕営業マンもいる。彼らが、何枠かずつ講師としてしゃべるのだからつまらないはずがない。
昨年よりも多くの学生さんたちが、大きな階段教室にいっぱいになっていた。訊けば、220名の学生諸氏が集まってくれたという。

私の持ち時間は、90分授業が3週間続く。一回目は「菊池寛と近代文学について」で、二回目は「芥川龍之介賞と直木三十五賞、菊池寛賞」の話をした。三回目は「ジャーナリズムや編集者・作家の仕事」のような話でもしようか。また、出版や新聞、放送や作家になるために、今のうちにどんな勉強をしておいたら良いか、種明かしでもしておいてあげようか、とも思う。
こんなことを自分自身でおさらいをしていたとき、ふと、自分の家のルーツをこのブログで書いてみたくなった。
祖父は「文豪」とか「文壇の大御所」とか言われた人で、怪しげながらも菊池の家のルーツを小説化したり、戯曲化したりしている。そのレールに沿って書いてみるのも面白いかも。では来週、3世紀末の『魏志倭人伝』から始めてみる。それでは、菊池一族の物語、はじまり~!はじまり~!