閉門即是深山 116
謹賀新年
皆様、明けましておめでとうございます!
松がとれて、今さら間の抜けたご挨拶ですが、また、この一年気が向いたらこのブログにお立ち寄りください。
そういえば、昨年の暮れ、21日月曜日だったと思う。私がいつも油を売っている居心地の良い赤坂のニューセイムという喫茶店の女性から前日の読売新聞をいただいた。12月20日付けの読売新聞日曜版「よみほっと」という頁である。この頁は、毎週日曜日に文学の旅を紹介するもので、この号は、1919年に祖父菊池寛が発表した『恩讐の彼方に』の舞台、大分県中津の耶馬渓が紹介されていた。ある年齢以上の読者ならば国語の教科書に載っていたので読まれたかも知れない。「青の洞門」である。
11月末か12月の初めころ読売新聞の西田浩編集委員に私は取材を受けていたが、残念ながらこの新聞の定期購読をやめていたので読むことができないでいた。西田編集委員の文章は、なかなか魅力的で、私のこの小説に対する意見や祖父が何故にこの小説を書いたかなど、取り留めもなしに私がしゃべったことを簡潔にまとめてくださっていた。逆に、この紙面を読んで、自分がこう思っていたんだなぁと、気付かせてくれた。
修学旅行で私は一度耶馬渓を訪ねたことがあった。しかし、学友や先生たちに、記念写真をひとりひとり撮れと言われて出発時間まで青の洞門の前で写真の対象になっていたので、禅海和尚のノミを振るっている像も菊池寛肖像のレリーフも見ていない。それに禅海が参拝に行ったという羅漢寺も観たい。羅漢寺は7世紀にインドの僧法道仙人が開いたという名刹で、五百羅漢は国の重要文化財に指定されると、読売新聞にはある。菊池寛の先祖は、熊本県菊池市であるから、この2県を訪ねてもいい。
さて、もうひとつ昨年の暮れの話だが、去年の6月から11月までの半年間刊行された書籍から、また、雑誌から選ばれた作品から優秀な小説が選抜されて、芥川龍之介賞・直木三十五賞の候補が発表された。
昨年は、このブログでもたびたび書いたが『火花』で芸人又吉直樹氏が授賞され一大芥川賞ブームが起きた。たぶん純文学作品で半年間に250万部近くを売り上げたのは、希有の例だろう。売上は別にしても、大衆文学いわゆるエンターティメント隆盛の中、多くの人に「純文学ここに有り!」とした又吉さんの功績は大変大きい。
去年の秋ごろだったか、大学のクラス会が催された。50名以上のクラスだったが、出席者は8名だった。7名は、既に亡くなっているらしい。住所不明または、生死不明者も12名いる。ちょうど向かい側の席にいた奴が、突然私にむかってこんなことを言った。
「こんどの芥川賞の何とかいう芸人の作品なんだけど、どうせ芸人の書く小説なんだからただ面白いだけで芸術性もなにも無いんじゃないか?」と。
私は、腹に据えかねて少々大人げなく次のように答えた。
「君は、その作品『火花』を読んだのか?読んで言っているなら答えようもあるけど、読んでいないで言っているなら答えられないよ」
12月の末の芥川・直木の発表は、陰で多くの編集者の苦労が予想できる。まず、それに向けて本を作る編集者がいる。優秀な作家に良いデビューをしてもらいたい、また、新進気鋭な作家にステップアップしてもらいたい一心で、作家を叱咤激励している編集者たちの顔が浮かんでくる。また、選ぶ側にも多くの編集者が携わっている。芥川賞に約20名、直木賞に約24名。日本文学振興会から委託された編集者たちは、社内委員会を作って半年間読み、討論を重ねる。もちろん通常の業務を持ちながらの仕事だから大変で、半年間にひとり70冊以上から100冊くらい読むのではないか。正確に書けば、半年間かけて読むのではなく、4カ月で読んで1冊ずつ丁寧に議論していく。それを繰り返し続け、本選選考会に出すために数冊に絞る仕事は、相当苦労の連続の仕事である。
その結果第154回の芥川賞候補、直木賞候補が決まった。以下に列挙してみる。
●芥川龍之介賞候補作は、以下6作品
「群像7月号」石田千氏『家へ』
「新潮12月号」上田岳弘氏『異教の友人』
「文学界10月号」加藤秀行氏『シエア』
「文学界12月号」滝口悠生氏『死んでいない者』
「文学界10月号」松波太郎氏『ホモサピエンスの瞬間』
「群像11月号」本谷有希子氏『異類婚姻譚』
●直木三十五賞候補作は、以下の5作品
文藝春秋:青山文平氏『つまをめとらば』
講談社:梶よう子氏『ヨイ豊』
東京創元社:深緑野分氏『戦場のコックたち』
文藝春秋:宮下奈都氏『羊と鋼の森』
KADOKAWA:柚月裕子氏『孤狼の血』
どの作品が授賞するか、あなたも読んで当ててみても面白いかも!