閉門即是深山 122
菊池寛の児童文学
このブログを毎週金曜日に連載更新をしてもらっていますが、今まで500本くらいのブログを書いていると頭が空っぽになってしまい、何も浮かばなくなることがある。今回がそれだった。困った、弱った。そこで、苦肉の策で祖父が子供たちのために書いた小説を載せることにする。それは『木の葉の小判』。
『木の葉の小判』 菊池寛著
村のとうげ道に、近ごろいたずらな狐がでて、通りがかりの人を、ばかすといううわさがたちました。
ある日、喜平というじいさんが、そのとうげをこえて、となり村まで用たしにゆくことになりました。その日は大へん寒い日でしたので、喜平じいさんははんてんの下に、あたたかい狐の毛皮をきこんででかけました。
ちょうどとうげの上までくると、道ばたに、となり村の仙太と伍助という、二人のかごやが、かごをおろして休んでいました。
「やあ、喜平さん。どこへゆきなさる。」
「ちょっとしんるいのうちまで……」
「そうですか。このあたりには、悪い狐が出るそうだから、気をつけていっておいで。」
「はい、ありがとう。」喜平じいさんはそのまま、坂をおりていきました。
二人は何の気なしに、そのうしろすがたをみおくっていましたが、思わず「あっ。」と小ごえでさけびました。喜平じいさんのはんてんの下から、ふとい狐のしっぽが、だらりと下がっているではありませんか。
「ふむ、さてはいたずら狐めが、喜平さんにばけて、おれ達をばかそうとしているんだな。」
「そうだ、いいことをかんがえたぞ。わざとだまされたふりをして、あの狐をかごにのせて、いけどりにしてやろうじゃないか。」
二人はいそいで、喜平じいさんのあとをおいかけました。
「おい、じいさん。おれ達もどうせもどり道だから、かごにのっておいで、なあに、おかねなどはいくらでもいいよ。」
二人はこういって、あまりのりたがらない喜平じいさんを、むりにかごへのせました。ところが、喜平じいさんがかごにのるが早いか、二人はいきなり細いひもをだして、喜平じいさんを、かごの柱にぐるぐるとくくりつけてしまいました。
「あいたたた、なにをするんだ。」
「ははは、いたずら狐め、いくら喜平じいさんにばけたつもりでも、それ、その通りしっぽが出てるじゃないか。さあ、早く正体をあらわせ。」
「じょうだんじゃない。おれはほんとうの喜平だよ。」
「まだあんな強情をいっている、それ、松葉でいぶして正体をださせよう。」
二人は火をもし、青松葉をとってきてくべ、もうもうとあがる煙を、どんどん喜平じいさんの顔に、ふきつけます。
「ごほんごほん。」喜平じいさんは、とても苦しくてたまりません。
「こりゃたまらん、うっかりしていると、いぶしころされてしまう、いっそのこと、ほんとの狐だといって、二人をだましてやろう。」と思いましたので、
「ああもし仙太さんに伍助さん、わしがわるかった、わしはほんとうは狐なのじゃ、どうか助けて下され。助けて下されば、おれいに小判をあげますよ。」
「なに、小判をくれるって、ほんとか。」
「ほんとですとも、そこらにおちている、木の葉をあつめておいでなさい。わしがそれを、小判にしてあげるから……」
二人は「しめた。」とばかり大喜びで、木の葉をあつめてきました。喜平じいさんはその木の葉に一々「ふっ、ふっ。」と息をふきかけて、「さあ、これで小判になりました。」
「いや、あなた方が見れば木の葉ですが、村の者には、それがりっぱな小判に見えるんですよ。うそだと思うなら、ふもとの茶店へもっていって、つかってごらんなさい。何でもあなた方のたべたいものがたべられますよ。」
二人は喜んで喜平じいさんのひもをほどいてやり、いそいで村へかけおりてゆき、茶店へとびこんで、おいしいごちそうを、おなかいっぱいたべました。そして仙太がはらがけから、さっきの木の葉を一枚だして、
「じいさんや、小判だよ、おつりはいらないよ。」といって、さっさと出ていこうとしました。茶店のじいさんは、おどろいて、
「おっとまった、何だい、この葉っぱは……」
「葉っぱじゃない小判だよ。」
「ばかな、こんな小判があるものか。」
じいさんがその葉っぱを、いろりの中へなげこむと、たちまち、めらめらともえてしまいました。
「さてはさっきの狐め、うまくわれわれをだましやがったな。」
仙太と伍助はとてもくやしがりましたが、どうしようもありません。とうとうたべただけのおかねをはらって、すごすごとかえっていきました。
そのころ喜平じいさんは、ぶじにしんるいの家について、とうげのできごとを話しながら、みんなで大笑いをしていました。
(昭和十二年十月「幼年倶楽部」 高松市教育委員会発行 菊池寛 児童 文学作品集小学校版より)
いかがでしたか?たまには、小学生のころに戻るのもいいかも知れませんね。ブログの読者がパパやママだったら、またお爺ちゃんやお婆ちゃんだったら家にいるお子さんにお話ししてください。私のお爺ちゃん菊池寛は、私が2歳になる少し前に亡くなりました。もう少し生きていてくれたら、直にこんなお話が聞けたかも知れません。ちょっと残念!