閉門即是深山 72
芥川賞・直木賞
半年が経つのは速い!
年に2度、上半期、下半期とある芥川・直木の両賞は「あっ!」という間に来る。
現在は、高みの見物の役割だが、現役で担当していたときの「その速さ」には驚かされ続けていた。
というのも、年に2度ある両賞とも直近半年間に出版された作品に限られる。ということは、締め切りまでの多くの作品を下読みが読んで候補作品を決定し、それを選考委員の先生方が読んで決定発表となり、贈呈式が済むまでには約2ヶ月かかる。だから、正味4ヶ月で次の作業をしなければならないのだ。
先日、第152回(平成26年下半期)芥川龍之介賞と直木三十五賞の贈呈式に出席してきた。
場所は、通年有楽町にある東京會舘だったが東京會舘が建て直すため4、5年休館するので、昨年から帝国ホテルの孔雀の間に移った。
この両賞の授賞式は、関係者、報道、そして、お客様を含めると1000名以上が集まる。よって、おのずから大会場は限られてくる。帝国ホテルの孔雀の間を全て使用しても、満員電車に乗っているような気がする。
本来なら終焉までいて、受賞者と名刺交換などしたり、知り合いなど見つけて情報を交換するのだが、今回は、その時間がなかった。3ヶ月前から幹事が走り回り、やっとその日に落ち着いた会があってバッティングしてしまった。
幸い、受賞式は午後6時から始まる。もうひとつの会の開催時刻は、7時だった。帝国ホテルは、日比谷公園前にある。もうひとつの会は、新橋であった。無理をすれば歩けない距離では無いが、最近はめったに乗らないタクシーを使うことにした。
贈呈式は、司会の進行によって始まる。現役時代に、私もこの司会をしていた。
まず、両賞の選考委員の代表が、選考の理由を述べるために登壇する。その後に、受賞者が「授賞の言葉」を述べる。
今回の受賞者は、各1名だった。先日もこのブログに書いたが、芥川賞は、群像9月号に掲載された小野正嗣氏の作品『九年前の祈り』、直木賞は、小学館が出版した作品『サラバ!』である。
芥川賞の受賞者の小野正嗣さんは、1970年大分県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。という経歴を持つ。2001年に『水に埋もれる墓』で朝日新人文学賞を受賞しデビューした。2002年には『にぎやかな湾に背負われた船』で三島由紀夫賞を受賞。他の著書には『森のはずれで』や『マイクロバス』『獅子渡り鼻』などがある。
一方、直木賞を『サラバ!』で授賞した西 加奈子さんは、1977年イラン・テヘラン生まれ、関西大学法学部を卒業して、2004年『あおい』で作家としてデビューした。2007年に『通天閣』で織田作之助賞を受賞、2013に『ふくわらい』で河合隼雄物語賞を受賞した。他の著書に『さくら』『きいろいゾウ』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』などがある。受賞式の壇上に上がった西さんの白地の着物姿の艶やかさにお客の中から溜息が洩れた。受賞者ふたりの「授賞の言葉」は、近年珍しいくらいに素晴らしかった。
受付でもらった公益財団法人日本文学振興会作成の栞の中に、今回の芥川賞受賞作と選評は文藝春秋3月号に、直木賞受賞作と選評はオール讀物3月号に掲載されること、そして、今回、両賞の候補作品が列記されていた。
今回は、残念だったが、受賞を逃した作品も書いておこうと思う。このブログの読者の方々に応援団になってもらいたいからである。
まず、芥川賞候補作は、
上田 岳弘さん 『惑星』 新潮 8月号
小野 正嗣さん 『九年前の祈り』 群像 9月号
小谷野 敦さん 『ヌエのいた家』 文學界 9月号
高尾 長良さん 『影媛』 新潮 12月号
高橋 弘希さん 『指の骨』 新潮 11月号
の5作品、
直木賞候補作は、
青山 文平さん 『鬼はもとより』 徳間書店
大島真寿美さん 『あなたの本当の人生は』 文藝春秋
木下 昌輝さん 『宇喜多の捨て嫁』 文藝春秋
西 加奈子さん 『サラバ!』 小学館
万城目 学さん 『悟浄出立』 新潮社
こちらも5作品だった。
以前このブログで書いたかも知れないが、私の祖父・菊池寛は、昭和10年1月号の『文藝春秋』の「芥川賞」「直木賞」制定発表号で、「審査は絶対に公平にして、二つの賞金を依って、有為なる作家が、世に出ることを期待している」と書いている(現代仮名、漢字に変えました)。
また、新たに小説をもって我々を楽しませてくれる作家が受賞したことは、とても幸せなことではないか?
今回も、「該当者ナシ」ではなくて受賞者が出てくれたことが、嬉しくてならない。