閉門即是深山 49
「女性専用」について
「ひゃ~!~!~!」
私の悲鳴が帝国ホテルの孔雀の間に響き轟いた。
最近観る映画は、宇宙物やホラー物が多い。
そのパーティー会場は、1000人を超える来客からちょっと外れた所に喫煙コーナーが設けられていて、そこで私は、『新宿鮫』の著者で第110回の直木賞受賞者の大沢在昌氏の友人で、その関係で友達になった某製本会社のY社長と立ち話をしていた。
そこにぬ~っと現れたのが坊主頭の奇怪な生物だった。
「ひゃ~!」小さな声で驚いたはずだったが、最近私は難聴ぎみで声がデカイ。
ゆえに顰蹙を買いそうなデカイ声で、「ひゃ~!~!~!」となった。
一瞬、宇宙からの生物と勘違いしたのは、このホームページで別のブログを書いている校條剛くんだった。
私の叫びが自分の出現のためだと思っていない彼は、いつものように自分の言いたいことを言って、座っておられた漫画家の黒鉄ヒロシ氏のテーブルに揉み手をしながら近づいて行ってしまった。
私に彼が言ったのは、現在彼が教授を勤める京都造形芸術大学でジャーナリズムについて話せ、ということだった。
宇宙の奇怪な生物が造形芸術の大学教授をしているのも不思議だが、長く文藝に明け暮れてきた私がジャーナリズムを語るのも摩訶不思議である。しかし、私は「NO!」と言わないことにしているから「ホイきた YES!」と、また調子の良いことを言ってしまった。「ホイきた」は、いらなかった、と後で反省をしたのだが……。
本来このブログは、タイトルのように別のことを書きだそうと思ってパソコンの前に座った。が、座った時、私の仕事場のディジタルアーカイブズ株式会社の主幹が来て、昨日、校條剛さんから久々にメールが来たこと、今回の直木賞受賞者 黒川博行さんと帝国ホテルの孔雀の間で出会ったこと、黒川さんが、誰も読んでいないと思っていたこの我々のブログをいち早く読んでいたことを校條さんが書いて来たと言ったので、出だしから別の話になってしまった。
黒川さんは、18年前に直木賞候補になってから5回目で受賞したから、同業のハードボイルド作家たちが、どっと受賞会場に押し寄せて来た。いつもの年より1週間も早い受賞式で、残暑が厳しい中、私でも枯れ木も山の賑わいと思って馳せ参じたのだが、杞憂であった。
今回の黒川博行氏のKADOKAWAの単行本『破門』は、浅田次郎氏、伊集院静氏、北方謙三氏、桐野夏生氏、高村薫氏、林真理子氏、東野圭吾氏、宮城谷昌光氏、宮部みゆき氏の9直木賞全選考委員の満場一致で認めるところだった。
さて、話はどんどんタイトルから離れてしまった。
そう「女性専用について」である。今朝、地下鉄有楽町線の永田町駅で南北線に乗り換えようとして、エスカレーターに乗った時だった。後ろから女性の駅員の怒鳴る声が聞こえた。本人は、けして怒鳴っているつもりはないのだろうが、朝のラッシュ時である。昔の白黒テレビ時代「ローハイド」というアメリカのドラマがあった。アメリカの牛使いの話である。ローハイドとは、カウボーイが股に挟んでいる革製の股ずれ防止用のエプロンのことだ。テレビでは、大量の牛が画面いっぱいに動き回る。朝の永田町駅の乗り換え口も大量の牛ではないが、大量の人で身動きが取れない。そこで、女性駅員が、注意を喚起しているのだから、怒鳴り声に聞こえたのだ。
「この一番後ろの車両は、女性専用車両で~す!ご注意願いま~す!男性のお客様は、もうひとつ前の車両までお進みくださ~い!」「そ、そこのお客様、この車両は、女性専用車両になってま~す!お乗りになれませ~ん!」「じょ、女性専用車両ですので、まっ、まっ、前の車両にお乗りくださ~い!」
私が上るエスカレーターに逆行して細身の40代のサラリーマンが、ドッドドと降りていった。間に合ったか振り返ってみた。エッ、その男が飛び乗ったのは「女性専用車両」のようだ。女性駅員の声が一段と高くなった。男の駅員も口ぐちに罵倒の声を上げ、集まってくるようだった。私は、そのとき思った。これは、差別に違いない。憲法に定める「基本的人権」「法の下の平等」に反している。なぜ、男が痴漢で、女が被害者なのか?その逆も有り得るだろう。確かに、あった。大昔のことだった。不詳私は、千葉県の東京寄りに住む某有名作家からお原稿を頂戴し、地下鉄に乗った。その地下鉄は、しばらく地上を走り、やがて地下に潜る。シートは、空いていたような気がする。なぜ、あの時私はドアの手摺に寄り掛かって外を見ていたのだろう。ひとの動く気配がした。そして、私の背中にぴったりと体を付けてきた。男性か女性かは、私のような愚鈍でも判る。出ている所が違うからだ。背中に触れる部分が違うのだ。判り易く言えば、出っ張りが違う。痴漢ではなく、嬉しいことに痴女だった。それから、どうしたか?
前半の部分、宇宙の生物のことに紙をついやしてしまった。
ご想像にお任せしよう。
付け加えて言っておくが、その痴女は、美人だった。そうだ地下鉄もJRも「男性専用車両」をなぜ作らないのか?これでは、不平等だ!