菊池寛の色紙の中の言葉 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 541

菊池寛の色紙の中の言葉

●「われ事に於て後悔をせず」
 宮本武蔵の名言をパクったようだ。雑誌文藝春秋で、菊池寛、直木三十五、吉川英治の宮本武蔵についての座談会があった。直木が「武蔵は、自分より弱い相手を選んで戦った」と豪語、吉川は「武蔵は本当に強かった」と反論。吉川英治は、その証明に『宮本武蔵』を書いたという。残念ながら、英治が脱稿する三か月前に直木三十五は、逝ってしまった。
 
●「人生は一局の将棋なり 指し直す能わず」
 囲碁、将棋、麻雀が、まだ庶民の遊びではなかったころ、菊池寛は、そのあそび心の軸として雑誌文藝春秋で、その面白さを発表!たぶん何かからパクって“一局の将棋”と変えたのではなかろうか、と思う。
 
●「人と契るなら、うすく契りて末までとげよ
 うすきが散るか てきがちるか
 もみぢ葉を見よ てきが先づちるものに候」
 前半は、わかり易く頷けるが、後半の部分がわかりにくい。菊池寛は、孫の私でもお世辞にも字が上手くなかった。もしかすると、私の読み間違いかもしれないが!
 
●「不幸のほとんどは 金でかたづけられる」
 明治維新により世の中が逆転する。高松藩の儒学博士であった菊池寛の父は、貧乏のどん底になった。祖父菊池寛は、遊ぶにも、学ぶにも、貧乏が邪魔をした。色紙に“金”などの言葉を書くには、勇気がいるものだが、貧乏逸話の多い菊池寛ならではの言葉であると思う。
 
●「無事之貴人」「無事之名馬」
 漢詩には、「無事之貴婦」という言葉があると聞いたことがある。この言葉を捩って、色紙によく書いた言葉が「無事之名馬」である。競馬好きな彼らしい。勝手に、心を読むと足を折ったり、怪我をしたりする馬をどんなに速い馬でも名馬とは言えない。無事がなによりで、人生も同じだと思う。か?

●「人生戀すれば憂患多しと 戀せざるも亦憂患多きを」
 恋をすると憂い悩むことが多い、しかし恋をしなくても人生は憂い事が沢山あるものだ!
 私は、いつもこの言葉の後に「それなら、恋しなけらば、損、損!」とつなげる。私の父は、祖父が外で残した子供たち5人に逢ったという。じゃあ、どのくらいいたのかなぁ?と、私が父に訊くと、二桁はいたはずだよ!と答えた。菊池家は、子供が少ない。ただ、血を絶やす心配はないので安心だ!
 
●「閉門即是深山 讀書随處浄土」
 私は、長い間編集者をしていたので、この言葉が好きである。依って、私のブログの題名に、この文の前半を使った。ある時、どういう意味かと尋ねられた。私が答えたのはこうだ!「ドアを閉めれば、そこは直ぐに深い山になる。本を読むのは何処でも出来るから、浄土、幸せである」と!