閉門即是深山 475
文豪、社長になる
私の家のポストに、日本郵便のスマートレターに入った1冊の本が文藝春秋から送られてきた。開けてみると表紙に、椅子に座って煙草をふかしている丸眼鏡をかけた私の祖父・菊池寛の絵がドーンと目立っている。装画は、井筒啓之さんの絵だった。茶色のバックに『文豪、社長になる』と題名が書かれている。私が昔在職していた編集部、小説雑誌『オール讀物』で今年の1月号まで門井慶喜氏が連載作品が本になったのだ!
実は、本になったら読もうと私は楽しみにしていた。本体定価1800円、文藝春秋から刊行された単行本である。
『オール讀物』は、1930年7月に臨時増刊『オール讀物號』として出版され、1931年4月から月刊化された小説誌で、野村胡堂の『銭形平次捕物控』や池波正太郎の『鬼平犯科帳』の連載誌でもある。また、直木三十五賞作品はオールに掲載される。
さて、菊池寛自身を題材にした本も多い。永井龍男、松本清張、井上ひさし、猪瀬直樹、青山学院大学の文学部教授片山宏行、杉森久英、矢崎泰久、菊池寛自身も『半自叙伝』を書いているし、私もその一人である。
今年は、祖父が文藝春秋を創刊、創設して100年目にあたる。この本も、百周年事業の一環か?帯表には「100年企業の土台は、人望。─仕事が、仲間が、人生が愛おしくなる 1023年最高の感動歴史長篇」とあり、小さく「1923年大ベストセラー作家・菊池寛の手によって文春は産声をあげた」と書かれている。帯裏には「楽しいんだ、菊池さんと仕事してると。それだけっ」とあり「芥川龍之介や直木三十五などの協力を得、菊池寛が発行した『文藝春秋』創刊号はたちまち完売する。時代が求めた雑誌は部数を伸ばし、会社も順風満帆の成長を遂げていく。しかし次第に、社業や寛自身にも暗い影が、芥川、直木という親友たちとの早すぎる死別、社員の裏切り、戦争協力による公職追放、会社解散の危機……。激動の時代に翻弄されながらも、文豪、社長として、波乱に満ちた生涯を送った寛が、最後まで決して見失わなかったものとは─。」と、書かれている。
実は、この本を抜き、封筒を破いた時に気がついたのだが、担当者からの宣伝パンフが入っていた。気付かず破って、慌ててテープで貼った。それには、
「創業者が主人公の物語に、社員が心動かされて良いはずがない。まして、文藝を軸のひとつとする出版社の編集者が、涙まで流すなどという、安っぽく、恥ずかしいことを許されるはずがない─。そう思いながらページをめくっていたのに、込み上げてくるものを押さえつけることができませんでした。(中略)
本書は『真珠夫人』などの大ベストセラー作家にして、今年創立100周年を迎えた文藝春秋の創業者でもあった菊池寛の一代記です。こう書くと、芸術でも実業でも成功を収めた偉人の話か、と白けてしまうかもしれませんが、そんなことは全くありません。本書は、友人作家の成功に嫉妬を燃やし、どんぶり勘定の経営で会社を危うくしたかと思えば、自分の意志で離れた会社に戻りたくて身もだえもします(後略)担当者より」
まぁ、本の宣伝をするために書かれた文章だから無断転載は、許してくれろ!