閉門即是深山 448
紳士の裸体
テレビのお笑い番組を観ていると、ほとんど裸で舞台に上がる芸人が多い。「そんなのカンケイない、オッパッピー!」と言う人、「穿いてますよ!」という人、スッポンポンでお尻まで出して一物をお盆で隠し、手品のようにそのお盆をクルリと回し拍手をもらう人、彼らは、何とか食い扶持を稼ぎ良い生活を送れるように一生懸命に練習を重ねたプロだから、まだいい!ただ、一度脱げば、もうその街道を走り続けねばならないだろう!考えた結果売れる芸が出来ないから裸になったのか、もともと裸癖があり先輩芸人に「それで行けるよ」と言われたのかは知らないが、私はあまり男の裸を見たいとは思わない。辛い思いで筋肉を鍛錬した人がその裸の影を残したいのは、わかる。あれは、スポーツの一種で世界的な選手権がいくつもあるからだ。
私は、ここで何回も書いてきたが、下戸である。小説界の編集者として下戸は、「片翼だけの天使」。いや、綺麗事すぎるなら「片翼の悪魔」と言ってもいいほどのそれは編集者にとって、重大な欠陥だと思う。私が編集者バリバリの35,6歳のころは、まだ景気がよく毎日のように作家から「銀座の店に来い!」と誘われた。そんな時、場を壊さないように他の技を考え、作家を含め他社の先輩編集者から「おもろい奴ダ!あいつを呼ぼう」と思ってもらわないと仕事が進まない!下戸は「裸」を選ばない!下戸は「羞恥心」が先行し、恰好を作り過ぎ、自分の心の殻からを壊し出る方法を知らない。
多くの飲兵衛の編集者の中には、全裸になって店中走り回る人たちがいた。普段は紳士、飲めば全裸男!みなが囃し立てるが、どうも下戸である私は冷めて見てしまう。男の身体のシルエットは綺麗とは言えないし、股間をブラブラさせて飲み屋の長椅子をピョンピョンと飛び回っている姿がそれだけで快楽なのかなぁ!気持ちがわからないのだ。そういえばイタリアあたりの銅製の像、例えばダビデ像などは男の全裸だが、日本で男性の裸の像をあまり観たことがない。
本人から聞いた話だ、現在はもう60歳代半ば上だから、免罪符をもらった話だろうが、その人も若い頃に飲みに行くと3軒目ぐらいで全裸になっていたらしい。なぜ全裸になりたいのかを訊いてみた。「営業を終えたり、お客さんと飲んだりしてるとネクタイやワイシャツ、パンツまでが邪魔になる気がするんだよ!スッポンポンになると気持ちもいいし、開放感があるし!若いからアレをクルクル回すと女性たちが、キャッキャッとはしゃぐしさ!そんな状態の時にカミさんと出会ったんだ!人生七不思議のひとつなんだけど、そんなボクとよく結婚したなぁ」しみじみと言う!「それがね、結婚式の時に新婦から『今日だけは、アレをしないでね』と釘を刺されたんだけど、三次会目に友人たちから取り押さえれれて全裸でタクシーに乗せられて新婦の待つホテルに連れていかれたんだ」何時頃ですか、すっかりその話が面白くなって私は訊いてみた。「たしか朝の五時ころだったよ」奥さんは、起きて待っていてくれたの?「うん、起きてたねぇ!でもね、その時、懇々と言われて、義理の両親はボクの裸癖を今だに知らないんだよ、ずっとね」