閉門即是深山 444
体脂肪
風呂場の脱衣籠に乗せてある体重計は、私が子供のころ見た体重計とは、ほど遠いものだった。
子供の頃の体重計は、学校の身体検査やお風呂屋さんの脱衣所に置いてあったあの鉄の塊に時計を付けたような「測り」で、錆が出ていたり「〇〇寄贈」とか牛乳や石鹸の宣伝が踏み台と大時計のようなメモリの間の鉄の棒にその名が書かれている。今でも見るなぁ、見た記憶があるなぁ、と思ったら相撲の新弟子検査の体重測定に未だに使われているアレだと思った。いやアレは、その前のモノで体重を錘を使って測るヤツで、我々がよく使っているのは、台に乗ると54kgとか目盛の針が回って指す仕組みだった。
それから何年かして家庭内でも体重計を置くことが流行った。箱型をしており、厚みが5センチくらい、上等なお使い物のカステラの木箱のような大きなものでかなり重い。それも暫くは、分度器のような形をしてガラス窓の中の針が体重を指すようなモノだった。どこの家もほこりを被ったその厄介な箱の置き場に困り、流しの狭い空間に押し込んであったような気がする。風呂場の脱衣籠に乗せてあるのは、ちょとオシャレである。ガラスなのか、プラスティックなのか、判明は出来ないが厚みも大きさも週刊誌のように薄く、小さく、カラフルで、どこにメモリが付いているのやらわからない!ただのちょっと小じゃれた板でケーキでも載せる皿のようで、どうすればよいか判らない。
仕事場のすぐ傍の「お好み焼き屋さん」に京大の名誉教授で京大の筋肉の異名のある森谷敏夫先生と雑談をしていた時、先生の口から「貴方の体脂肪は、きっと20から21だろうと思うよ」と言われ、その場に居た男どもが「へ~っ」と口をそろえた。先生は「因みに僕は、いつも10くらいだけど、このところ忙しいから鍛える時間がなかった。きっと11くらいかも」と、付け加えられた。
体脂肪率ねぇ、名前は知っているし、テレビでもよく聞く言葉。何か男の勲章みたいなモノに違いないが、10が何だか、20が良いのか悪いのかまったくわからない。あの男たちの「へ~っ」が私を馬鹿にしているものか、尊敬しているものかがわからなかった。先生たちと別れ、急いでバスに乗り、小走りに家に着き、風呂場に向かった。
「向かった」と書いたが、そんなに大きなマンションの部屋ではない。15~6歩で風呂場に着く。あった!目指す近代的なカラフルな週刊誌大の体重計が、朝、顔を洗う時に見た同じ格好で、風呂場のプラスティック製の2段式の籠、下は汗臭いシャツを脱ぎ入れ、上には着替えのTシャツを置く籠。そこに週刊誌程の体重計の板。
ねぇ、これどうやればいい?「やり方もわかんないの?この脇を押せばデジタルのメモリがでるでしょうよ!」厳しい、だが、やってみた。なんだノートパソコンのCDを出し入れするのと同じやり方じゃないか、どうして隠されているんだ。と、思いつつ床に降ろして乗ってみた。デジタル数字だから見にくいが、20~21の間だった。先生ご名答!調べると男は体脂肪率お平均が10~20が基準らしい。後日「先生、体脂肪率を家の体重計で測ってみましたが、20、32とでたんですが」「あのねぇ自分の歳を考えて、あなたの歳の人のほとんどは40以上だからね」