閉門即是深山 417
春風亭小朝『菊池寛が落語になる日』
私の祖父の小説が小朝師匠の手によって落語になったことは、以前このブログで書いた覚えがあります。
今度は『菊池寛が落語になる日』というタイトルで本になったのです。文藝春秋100周年記念の一環、記念事業で、春風亭小朝師匠が菊池寛の小説を基にして落語にした作品9本と菊池寛の短編で構成され、おまけに浅田次郎さんと小朝師匠の菊池寛作品対談も収録されているのです。発売元は、言わずと知れた文藝春秋です。
本の帯には“大きく落語小説誕生!”とあり、師匠の名前が書かれています。老眼の私には文字が小さいので、老眼鏡と虫眼鏡を使って読んでみたのですが、帯には浅田次郎さんとの対談の一部が載っています。虫眼鏡をお持ちでない方のために読んでみますね!
「小朝さんのような落語の天才が菊池寛の小説に興味を持って、現代によみがえらせてくれた。草葉の陰でよろこんでいるとおもいますよ。」──浅田次郎(対談より)
春風亭小朝さんが私の祖父の小説を落語にしてくれた作品の数は、10数本になりますが、その中で9本を選んで掲載をしたようです。目次から拾ってみましょう。
『入れ札』、『予感』(菊池寛の小説を改題、原作は『妻は皆知れり』)、『うばすて山』、『お見舞い』(菊池寛の小説を改題、原作は『病人と健康者』)、『時の氏神』、『好色正道』、『龍』(原作名は『竜』)、『ある理由』(原作名は『葬式に行かぬ訳』)、『マスク』。この9作品です。
私が祖父の小説で好きなのが、国定忠治が赤城の山で可愛い子分たちと離れ離れに別れるシーンを書いた『入れ札』です。
また、祖父は競馬馬を50頭近く持っていましたが、その半数の馬名に自分の小説『時の氏神』の“トキノ”をつけていました。祖父が映画の大映の初代社長を引き受けた時、永田雅一氏に「キミも馬を持ちなさい、そしたら“トキノ”を名前に付けたらいいよ」と言い残していたそうです。祖父が急逝して3ヵ月後に一頭の馬が生まれました。永田さんは、これもご縁だと、その仔馬を買いトキノミノルと名付けました。あの「幻の名馬」と呼ばれて、今でもJRAの記念館の玄関に大きなブロンズ像として飾られています。私もこの『時の氏神』という作品が大好きです。
『葬式に行かぬ訳』は小説ですが、とても彼らしい作品です。彼は、現実でも「葬式に行ってくるよ」と出て行き、途中で引き返してくることが何べんもあったそうです。
小朝師匠は、ご自分の誕生日と菊池寛の命日が同月同日だったので祖父に興味を持ったそうです。そして、祖父の短編を読んで「イメージがどんどん涌いてきて、落語になるなと思った」そうです。師匠のご挨拶を引用してみましょう。
「この瞬間、自分勝手に菊池さんとの御縁を感じてしまったのです。作品を落語にしてみようと思い立ってから真っ先に気になったのは、どの程度原作に手を加えてよいものかという点です。うちのスタッフがお孫さんの菊池夏樹さんへ問い合わせたところ、自由に作り直して結構ですよという涙が出るようなお言葉。」(文藝春秋発行、春風亭小朝『菊池寛が落語になる日』御挨拶より)。
この孫が私です。『新宿鮫シリーズ』でベストセラー作家になった友人作家大沢在昌さんから以前聞いた言葉があります。「菊池さんね、媒体によって面白いところが違うんだ、小説は小説の、漫画やドラマ、舞台、それぞれ違うから原作に拘ると面白いものができないよ」って!
明日、新宿の紀伊國屋ホールで小朝さんの落語が聴けます。明日は、祖父のどの作品が「落語になる日」になるのでしょうか?
春々堂主催「春風亭小朝独演会-菊池寛が落語になる日-vol.10」
https://store.kinokuniya.co.jp/event/1639273481/
2022年1月29日(土)18:00〜(17:30開場)