疫病撃退 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 414

疫病撃退

このブログを読んでくださっている読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年も毎週欠かさず書いていく所存でございますので、是非、続けてお読み頂ければ、幸甚でございます。

と、堅苦しいご挨拶が済みましたので、いつものように書いていきます。
昨年の暮れには、東京も大阪も新型コロナウイルスの感染者が少なくなってきました。しかし、南アフリカから変異株が発見され11月26日にWHOは、この懸念される変異体を「オミクロン」と名前を付けたのです。コロナと人間との闘いは、約3年におよびます。

以前にも書きましたが、祖父の菊池寛の作品の中に『マスク』(文春文庫刊)があります。これは、約100年前、第一次世界大戦が終結された頃から流行しはじめた、スペイン風邪というインフルエンザ・パンデミックが題材になっています。スペイン風邪は、1918年頃から1920年、約3年にかけて世界的に大流行しました。世界の人口が18億人とも19億人ともいわれた中で、27%の5億人にのぼる感染者を出し、5000万人から1億人以上の死者を出しました。日本でも45万人の方が犠牲になったといわれております。

祖父が『マスク』を書いたその中には、
「毎日の新聞に出る死亡者数の増減に依って、自分は一喜一憂した。日毎に増して行って、三千三百三十七人まで行くと、それを最高の記録として、僅かばかりではあったが、段々減少し始めたときには、自分はホッとした。が、自重した。二月一杯は殆んど、外出しなかった。友人はもとより、妻までが、自分の臆病を笑った。自分も少し神経衰弱の恐病症に罹って居ると思った。が、感冒に対する自分の恐怖は、何にもまぎらすことの出来ない実感だった。」とあります。

新型コロナでは、医療の進歩により死者数は45万人も出ないものの、約2万人が犠牲になる大惨事になったわけです。
祖父が書いた『マスク』には、次のように書かれた一節があります。
「病気を恐れないで、伝染の危険を冒すなどと云うことは、それは野蛮人の勇気だよ。病気を恐れて伝染の危険を絶対に避けると云う方が、文明人としての勇気だよ。誰も、もうマスクを掛けて居ないときに、マスクを掛けて居るのは変なものだよ。が、それは臆病でなくして、文明人としての勇気だと思うよ。」

また、次のような一節も書いています。
「自分は、そう云う人を見付け出すごとに、自分一人マスクを付けて居ると云う、一種のてれくささから救われた。自分が、真の意味の衛生家であり、生命を極度に愛惜する点に於て一個の文明人であると云ったような、誇をさえ感じた」

西洋が第何波といって感染者が増えたり、規制を厳しくしている去年の秋ごろ日本では、急激に感染者が減った。外国にも日本人の中にも不思議がる人が多いが、日本人には、祖父が書くような心があるのではないだろうか?
ともかく今年は「疫病を撃退」する年にしたいですね!