2021年12月10日発売 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp | honya.jp

閉門即是深山 405

2021年12月10日発売

大正12年1月祖父・菊池寛が35歳の時『文藝春秋』を創刊した。『中央公論』や『新潮』に比べれば、紙も良くない。頁もたった28頁という、余りにもささやか過ぎる雑誌だった。しかし、1部10銭という破格な安さの値段をつけた。創刊に加わった佐々木味津三の回想では「菊池寛は、ポケットマネーの二百円はどうにでもなるからね。それで出すんだ。『牙城』という題はどうだろう。君、君、いかんかね」
以前創刊時に加わった人たちには「仮だがね題を『文藝春秋』にしたいと思っている」と言っていたはずだが、いつの間にか『牙城』に変わっていた。いや、やはりこないだの『文藝春秋』がいいのでは、そこで止めてくれなければ、今の文藝春秋は無かった!牙城?ピントこない。
創刊号は3000部、2月号は4000部、倍々ゲームの売れ行きだった。大衆である読者は、このような雑誌が出版されることを待っていたのだ。読者の喉の渇きを潤す雑誌を!菊池寛の書いた「創刊の辞」をここに写してみる。

創刊の辞──私は頼まれて物を云ふことに飽いた。自分で考へてゐることを、読者や編輯者に気兼なしに、自由な心持で云って見たい。友人にも私と同感の人々が多いだらう。又、私が知ってゐる若い人達には、物が云ひたくて、ウズウズしてゐる人が多い。一には自分のため、一には他のため、この小雑誌を出すことにした。──

また、裏表紙の奥付の上欄に

もとより、気まぐれに出した雑誌だから、何等の定見もない。原稿が集まらなくなったら、来月にも廃すかも知れない。また、雑誌も売れ景気もよかったら、拡大して、創作ものせ、堂々たる文藝雑誌にするかも知れない。
去年あたり、いろいろな人々から悪口を云われても、大抵は黙ってゐた。平生書き付けない文藝欄などへ、飛び出して行って、喧嘩をするのは大人気ないと思ったから。が今年からは、自分に対する非難攻撃には、せいぜい、この雑誌で答へたいと思ふ。

という菊池寛の後記が載っている。2月号には、川端康成らの第六次『新思潮』同人と佐々木味津三らの『蜘蛛』の同人、横山利一も含まれた。

──これは、僕の手下でもなければ、門下でもない。皆、堂々たる文筆の士である。『文藝春秋』に書くと、菊池寛の弟子のように思われるので厭だと云った人があるので敢て断って置く。──

先日、私のメールに文藝春秋の編集部から、原稿の依頼状が届いた。プリントをして読んでみた。
「特別企画ご寄稿のお願い」とある。

【小誌「文藝春秋」は来年2022年をもって創刊100周年を迎えます。それを記念しまして、2022年1月号(2021年12月10日発売)で、特別企画を準備しております。菊池様には、菊池寛さんについてのお話をご紹介いただきたく、お願いのご連絡をした次第です。】と書かれていた。私は、返事の代わりに原稿を送った!