閉門即是深山 385
仲間の死
日曜日の朝、スマホに電話が入っている音がした。私は難聴ぎみなのでスグには気が付かない。気づいたたころには、2~3回鳴っているのが普通である。
まず、電子音がする。何の音かな?と私の脳が、スマホを探す!食堂テーブルの上か?いや無い!ならば、ジャケットの内ポケットか?そこにも無い。えっ!じゃ、音がどこで鳴っているか探さなきゃ!
これが、壊れかけている私の頭のオンボード内の動きなのだ。ほとんどが電話に気づくと切れているが、この時はスグに見つかった。
小学校からの友人で大学は別々だったが、大学にあまり行かずにバンドを組んでアルバイトに励んだ仲間だ。彼は、リードギターを弾き、The XL-5と言う名のバンドのリーダーをしてくれた。頑固で、思い込みが強く、煮ても焼いても食えないような性格だが、私と正反対のタイプだからぶつかり合う事もない。
「おい、今連絡が入った!19日にトクが死んだこと知っているか?詳しい事は、わからん!とりあえず知らせておくから、何か情報が入ったら連絡をくれ!」ぷつりと電話は、切れてしまった。
私は暫らく放心状態のようになっていたらしい。トクも同じ学校に通っていた。口の悪い仲間だった。彼と兄貴は、あまり上手くいってないと、何年か前に誰からか聞いたことがあった。兄貴は、元アナウンサーで現在バスの中でZZZするので有名だ。
トクは、昔息子が生まれたと言っていたが、ある時から息子の話が出なくなった。息子の話を久しぶりにするようになったのは、息子がテレビに何度か出るようになってからだ。芸名をミッツ何たらと言って、引っ張りだこらしい。
トクと最後に逢ったのは、昨年の3月16日だった。彼から私にSMSが入っていて、そこに日付けが書かれているので間違いない!SMSを開くと今でも彼が元気でいるような言葉が書かれてある。
プライベートのことだからここでは書かないが、ふたりで綴りあった最後の方に彼が書いた「よろしく」とある。私は一度「了解!」と書き、続いてまた出している。私が彼に書いたコメントは「今日は、お疲れさま!コロナだけじゃなく、躰に気をつけろよ!ちょっと痩せたようだから!」これが、私と彼の最後のやりとりになってしまった。
コロナ禍であるから家族葬にしたらしい。それから仲間たちに連絡をとった。「去年の秋、ちょと用事があって彼と逢ったけど、そんな節無かったがなぁ!」という奴、「今年の3月にめづらしく彼から電話があってさ、歌舞伎座が開いたら歌舞伎に行きたいんだ!一緒に行こうよ!互いに時間を調整して、本当は5月25日に行く約束をしたんだけど、また宣言が出て行けなくなったから彼に電話をしたらメールが帰ってきてさ、“残念だな!”と書いてあったんだ」という奴、誰もが、きっと本人さえ、死ぬとは思っていなかったようだ。
結局、コロナ騒動が収まったら考えようと言うことになった。この年齢になると同級生の仲間の死は辛い。刻々と自分に死が近づいてくる足音みたいだ。
その日の夜中、家の前の海に出た。隅田川の河口、東京湾だ。不思議に海の真ん中に平な道が出来、周りはさざ波である。おぼろ月夜「おい俺の息子に逢ったら早く迎えに来いと伝えてくれよ」と私は空に言った。たしかに彼の声がした「もし逢えたらな!」と。