閉門即是深山 383
慇懃(いんぎん)
昔と違って、現在はお役所に行くと親切である。
「いらっしゃいませ!」「有難う御座います」と言ってくれる。それに銀行なみに案内係の方までいらっしゃって「どんなご用件でしょうか、ご案内いたします」などとも言ってくれる。
昔は違った。雰囲気だけ書けば、「俺たちゃお前らの為にやってやるんだぞ!」それが、ありありと感じた。長時間待たされるのが当たり前で、役所に行かねばならない時は時間をたっぷり用意して行ったものだ!
たらい回しなど当たり前で、長時間待たされて窓口に呼ばれ目的の話をすると「それは、この窓口ではありません!2階の××と書いてある窓口に行ってください」と言われる。また、待つのだ。
それを何度か繰り返すわけだが、事によっては「ここは派出所ですから本庁舎の方の扱いですから」などと言われる。派出所から歩いても30分近くの所である。バスに乗らねばならなかったりもする。
朝オープン時間に行って、終わるのが夕方近くになった事もある。最近は違うのだ!いつからこんなにも変わったか思い出せないが、ガラリと変わった。民間企業と同じような親切な運びである。最初は、いやに気持ち悪かった。何か落とし穴があるのではないかと疑いもした。
慇懃無礼と言う言葉がある。広辞苑第4版を調べてみると「慇懃→ねんごろなこと。ていねい。」とある。その項の「慇懃無礼」には「うわべはていねいなようで、実は尊大であること。」と書かれている。昔の役所は、まったくその逆だった。「うわべも尊大で、実は全てが尊大だった」
行くのが嫌だったが、行かざるを得ない事が多かった。今では、コンビニでもやれる印鑑証明や住民票、何から何まで足を運ばざるを得なかった。お上にお目通りさせて頂く庶民であった。
多くの方が確定申告をして、小遣い、いや、もっと大きな額の方もいるが、ともかく根こそぎ国税と称してお国に税金を徴収される。もし、お支払いを忘れると偉い多額の利息も付くし、家ごと持っていかれる場合もある。
それに伴い住民税がある。私の場合「都税」である。物を買えば、一割は税を納めねばならない!そして、これが国民の義務とされる。役所にとっては、お客様に間違いない。「いらっしゃいませ!」「有難う御座います」は、当たり前の事で、慇懃無礼は元々が間違っていたのだ。
「へ~ぇ、良くなったものだな~ぁ!」と思っていた。しかし、何でもボロがでるものだ!今回のコロナの予防接種騒動である。いろんなパターンがあるかも知れないから、私の経験だかにする。ある日、待ちに待った封書が家に届いた。すぐに開いた。
実は、以前から、ワクチン予防接種が決まったころから私の住むマンションの下にある主治医に相談をしていた。もし、こちらで接種出来るようでしたら家人と共にこちらでしたいのです、薬をもらう時に常に言い続けたが「何も役所から言って来ないんですよ」と言われるばかりである。
封筒の中身を読むと、とても老人に出来そうもないネット操作と、繋がらない電話番号!「75歳以上の一般の方」が出来るわけがないじゃんか!」。知り合いの若者に頼み倒し、頭を下げて家人の分と予約してもらった。ところが、だ!2週間たって、案内が届いた。主治医の下でも出来るという!慇懃で、無礼者の奴らからだ!