高松市の誕生日会| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

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高松市の誕生日会

2020年の今年、香川県高松市は市制施行130周年記念、要するに高松市の誕生日の年を迎える。その誕生日会をするはずだった。名付けて『高松市市民文化祭アーツフェスタたかまつ2020』である。
高松は、文化や芸術をとても大事にする都市で、瀬戸内芸術祭として高松にある文化・芸術に関した館、高松の島々を使って美術展を開催したり、音楽会を開催したりする。

実は、人間が人間である証というべき藝術一般、物語作り、例えば、小説、戯曲、芝居、美術、音楽などは、大変お金のかかることで、それに関わる人たちはいつも懐が寂しい!ヨーロッパ諸国のように、国や貴族、教会などがスポンサードする習慣の無い日本などは、なかなか芸術が育たない。
祖父・菊池寛は、それを憂いて文藝春秋を創立したり、芥川龍之介賞や直木三十五賞などを創設したり、それに携わる人々を守るために日本文藝家協会を創ったりした。父から聞いた話では、祖父が亡くなった時、現金は一銭も残っていなかったようである。また、祖母が文藝春秋に取材を受けた時、祖父が家に入れたお金は、やっと暮らせるお金だと答えていた。当時、破格な原稿料を貰って大人気作家であった祖父は、お金を貰うと、ほとんど藝術のために使ってしまったのではないだろうか。それは、四国香川県高松育ち、高松気質であったからかも知れない。

高松市制130周年記念フェスタの『菊池寛シアター』を主宰する劇団マグダレーナが、5月24日に高松駅前にあるサンポート高松のホールで菊池寛の戯曲『屋上の狂人』と『父帰る』を上演するはずであった。私の好きだったテレビドラマ『Gメン75』にレギュラー出演していた原田大二郎さんが、この企画演出の中に入っていると聞いた時は、嬉しかった。彼は、私が担当していた池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』のシリーズにもたびたび出演していた。

どうも、菊池寛の2作品の芝居の合間に原田大二郎さんと私のトークショーが企画されていると言う。原田さんから電話が入った。逢おうと言われ、ふたりで話をした。私より3歳年上で、良い男である。2時間近く話しこんだ!やや、新型コロナウイルスが心配であった。東京から高松往復のリスクがある。世間は、テレビも新聞も週刊文春もコロナで染まっている。その日のパンフレットに1000字ほどの文章を頼まれていた。こんな時だから、何て書いたら良いものか、書き出しに困って、しばらくほっておいた。さぁ、書こうとしてパソコンを開いた時だった。菊池寛シアター・劇団マグダレーナ代表からメールが入っていた。恐る恐る読んでみた!次のような文面だった。

コロナは依然衰えず、東京は大変だと推察いたします。本日高松市から中止の連絡がありましたので、お知らせいたします。企画そのものは来年のアーツフェスタ2021にそのまま延期公演することになりました!
そうだろうな、世界的なオリンピックやウインブルドン、世界陸上さえ延期されたんだもの。その方がいいよ!騒ぎが収まって、心がカサカサになった人間の心を癒すのが藝術の力だものんね!でないと、人間の心が干からびてしまうものね!