閉門即是深山 229
映画は大映
このタイトルを知らない読者のために書いておくと「映画は大映」とは、昭和46年12月に倒産した映画会社大映のキャッチコピーである。
昭和26年11月に刊行された『大映十年史』の中に『宮本武蔵』の著者 吉川英治氏が「大映初代社長としての──菊池寛氏を偲ぶ」という随筆を寄せているので、ここにその数行を引用してみる。
『永田に見込まれてしまったのさ。大谷さんもすゝめるしね、ぼく、やることに極めたよ』
大映の初代社長の就任をひきうけたとき、菊池氏はそんなふうな別に感慨もない呟き方をした。それが友達への報告のつもりらしい。いったい本当に乗気なのだか、厭々なのか、例のごとくあの人の表情だけでは分らない。
就任は、昭和18年3月だったと思ふ。
新聞も世評も、みな意外のやうに書いたし、また有り得ることのやうにも云った。何か、適材が適所にすわったといふ感じはジャーナリストなら誰でもひとしく持った事だからである。
然し、友人間には『いゝかねえ。映画になぞ、踏みこんで』と、菊池氏の晩節のために、危惧する者がないでもなかった。
(白水社刊『菊池寛と大映』より)
昭和16年、社団法人日本映画協会に国の情報局から映画用生フィルムの原料は軍需品になるから民需に応じ得なくなったと命が下った。国の希望は、映画会社を2社に絞ることであった。東宝と松竹である。これに反発したのが永田雅一であった。そこで昭和17年1月に大映が誕生し、祖父が初代社長となった。大映が倒産し、徳間書店が継いだ。その後、角川映画となる。
先日、近くの映画館で1枚のパンフレットを手に入れた。そこには「大映創立75年記念企画 大映男優祭」とある。今年の5月11日まで角川シネマ新宿で大映作品が45本一挙上映!と刷られていた。この連休で見に行こうと思う。山崎豊子原作・田宮二郎主演の「白い巨塔」、菊池寛原作・長谷川一夫と京マチ子の「地獄門」、柴田錬三郎原作・市川雷蔵の「眠狂四郎シリーズ」、中里介山原作・雷蔵の「大菩薩峠」、梶山季之原作・田宮二郎の「黒の試走車」、谷崎潤一郎晩年の代表作品・若尾文子主演の「瘋癲老人日記」、江戸川乱歩原作・船越英二主演「盲獣」、山崎豊子原作・京マチ子、若尾文子の「女の勲章」。
もう書ききれないが、もう一度観たい作品ばかりだ!連休安泰である。