無事是名馬| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 227

無事是名馬

ニュースは、東京が大雪のための大混乱を映し出していた。と言ってもニュースキャスターが期待したようなものでもなく、渋谷ハチ公前のスクランブル交差点にしても、新宿南口にしても、八王子駅前の歩道橋にしても、積もっているわけでは無い。ニュースの映像も、しかたなくだろうが、上野のお山の花見客が居ない風景に切り替わった。
「やっと間に合いました、いつもなら30分くらいで着くのですが、大雪のせいで3時間かかりました!」
レポーターが現地から大雪、渋滞・事故情報を伝えているようだ。箱根の旧道である。路は、大渋滞でスリップして停まるもの、溝に落ちるもの、互いにぶつかり合い動かなくもの、立ち往生するもの、これこそが、大雪後のニュースである。「なごり雪です、自動車は、雪用のタイヤにまた切り替えてください!」しきりに前日も朝のニュースも言っていたのに、新聞もテレビのニュースも見ないのかしらん!と思うと、可哀そうに!を通り越して、アホらしく思った。

画面には、JAFの応援も来ている。仕事とは言え、いい迷惑にちがいない。確かに春分の日、祭日であるからドライブでも、温泉でも、と思うのは解るが、関東地域全域に大雪警戒警報が出ているのにわざわざひと騒ぎでもあるまいに!しかし、私は次の日に大阪日帰り出張が決まっていた。京大の名誉教授・森谷敏夫筋肉センセイの著書『京大の筋肉2』の出版記念講演会の司会をするためである。
「のぞみ」の喫煙ルームから見える景色は、昨夜の心配が嘘のように美しかった。遠く連山から雲が湧き出て、山を上下真半分に分けながら、後ろに流れて行く。あの箱根の山には、昨夜置き去りにされた車たちが、片足を溝に突っ込み、また顔を潰され、捨てられてベソをかきながら助けを待っているのかも知れない。

大阪梅田の会場は、満席であった。森谷筋肉センセイも自然にテンションが上っていく。「筋肉」が、ロコモや認知症、糖尿病のような成人病にこんなにも関係が深いなど、誰も想像出来なかっただろうに。『京大の筋肉2』の帯には「人生100年時代に知って欲しい筋肉の物語」とある。裏には「筋肉を動かすことが、健康を維持する最大の処方箋だ」とも「日頃から〈運動〉し、〈食事〉に気を配り、〈生活リズム〉を整えていけば、肥満や糖尿病、認知症の予防に有効です。」とも書かれている。
私は、最終新幹線に乗るために、急ぎ、新大阪駅に向かった。今日からは、エスカレータに乗らずに、階段を使おうと誓いながら。
ゼイゼイ!であったが。