お行儀| 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 206

お行儀

東京はその日の朝、小雨が降ったり止んだりの状態だった。日本ペンクラブの会長、事務長、企画事業委員の皆とは、10時発の東海道新幹線のぞみの座席で落ち合うことになっている。都合の良いことに私の住まいの前にバス停があって、東京駅八重洲口行きのバスが停まる。乗れば、15分、混んでいても20分くらいだろう。バッグに折りたたみの傘と小さく畳めるコートを入れ、帽子だけでバス停に向かう。そんなに濡れるほどでもない。ただ、この秋一番の寒さ、とテレビの予報は伝えていた。全国的に雨もようは、確からしい。1時間半前に家を出た。早めに、早めに、が癖だからしょうがない。所詮は、貧乏症なのだろう。いつも一人の場合は、東京駅八重洲口地下街にある珈琲店で時間をつぶす。煙草が吸えるから。電子煙草にしても、喫煙席に座らなければならない日本の習慣は不思議だが、お行儀のいい日本人ならではの良い習慣かもしれない。

今日の京都行きの目的は、日本ペンクラブの「京都例会」の手伝い。懇親会の前に、今年会長に就任された吉岡忍さんの挨拶と、作家佐々木譲さんの講演がある。手伝いのメンバーは、みんな京都に泊るという。私は、9月、11月と京都行きがあるので、日帰りを希望した。佐々木譲さんは、前日先乗りである。車内で、8人が揃った。走り出すと、もう仕事の話だ。車内会議となる。誰かが「11月のペンの日、講演して頂く方がまだ決まってませんよ!」と言いだしたからだ。横から吉岡会長が「春風亭小朝師匠は君が良く知っているだろ?『菊池寛が落語になった日』という独演会をされてるそうじゃないか?小朝師匠に『落語と文学』という演題で講演頼めないかなぁ!」と言うじゃな~い?新会長に言われりゃしょうがない。「向こうに着いたら電話してみますね」と答えた。

それから、いろいろな議題が出た。誰だか、これも忘れたが、今のIT産業の話になった。私もIT産業で困っている問題を抱えていた。「青空文庫に対する問題」である。
青空文庫では、沢山の小説が読めるそうだが、どこまで法律の知識やお行儀の知識を持っているのだろうか、と疑ってしまう。私の祖父・菊池寛の小説もいっぱい入っているらしい。しかし、著作権継承者である私に一度も連絡がない。よく著作権が切れた。とか、死後50年著作権がある。というが、間違っている。著作権は永久権であり、50年経てば一般の人たちが自由に読めるように、著作権料を得ることが出来なくなるだけである。もちろん『少年少女文学全集』のような子供向けを別として、大人が読む媒体では一字一句変えないことが前提だが。ちゃんとした出版社からは、かならず連絡を頂く。ITソフト会社の“お行儀”の悪さは、困った問題である。