お迎えの話 | 閉門即是深山(菊池夏樹) | honya.jp

閉門即是深山 179

お迎えの話

私は、70歳過ぎてふたつのバンドにドラマーとして属していると以前書いた。
そのひとつは、私の子供のころからの音楽仲間でバンドを組んでいたリードギターで、彼に誘われて一緒に音楽を楽しむことになったのだ。メンバーは、5人で、男は私と彼、他の皆は女性だから月1回の練習日は日中となる。女性たちは、皆奥方連だから夜には家に居なければならない。
毎月1回新横浜のスタジオを借りて集まる。平均年齢は、女性たちの齢が聞けないのであやふやだが、男ふたりが70歳を超えているからたぶん65~66歳くらいだと思う。ほとんどが横浜近辺に住んでいるようでバンド名も横浜に因んだ「Red Shoes」という。なにげなく雑談を聞いていると、皆それぞれに若い時分にバンドを作り楽しんでいたことが判る。彼と私も学生時代にロックバンドを作り楽しんでいたのだ。

昨夜、もうひとつのバンドの練習日だった。これも月に1回集まる。月に何度もやりたい気持ちはあるが、それが決まりとなると出席出来ないときが生まれ解散せざるを得なくなるので、ちょうどいい。なにかライブでも入ったときは、都合を合わせて練習日を多くすればいいのだ。昨夜のバンド名は「Neo XL-4」と付けた。メンバーが4人で、そのうち3人が学生時代のバンド「THE XL-5」の仲間たちで、今やそのときの2人が鬼籍のひとになっている。再開するにあたってサイドギターを探して、現役のドクターに入ってもらった。齢は、67~68歳くらいだろうか?やはり平均年齢は、69歳くらいになる。超高齢者バンドである。

両バンドとも練習時間は、3時間。このバンドは、男ばかりで、現役の開業医がいるから三軒茶屋のスタジオで夜7時半から始める。終わりは、10時半になる。昔だったら、練習が終わった後どこかに流れるのが相場だが、なんせ高齢者集団だからすぐに身支度をして家路を急ぐ。楽器を持ち、奏で、たまに歌うのが最高の楽しみなのだ。やれ、膝が悪くなったとか、指の関節が痛くてたまらんとか、椅子に座りっぱなしでギターの重さに耐えているとか、ほとんど老人ホームや介護施設に入る予行練習のようなものだ。毎回「いつまでやれるかねぇ~」と誰かがいう。昨夜は、ちょっと深刻な不思議な話となった。もちろん、酒を飲み卓を囲んでの話ではない。スタジオ内の機材、アンプ、何本かのマイク、ミキサーやドラムセットなどの間に、肩からギターやベースを提げての会話である。「ついつい長生きしちゃったなぁ~!いつお迎えがくるかなぁ~!」若いころ女性たちをブイブイ言わせた自称イケメンが言う。「そりゃ、もう自然にくるだろ」遊びに遊び、今じゃ葉山のヨットが恋人のヤツがいう。「男は、臭い、汚い、役立たずと、この齢じゃ言われるがよ、ほんとだな!早く死にて~よ、楽しきゃいいよ、でも高齢になったら自殺の権利くらい持ちてぇ!」これが、陰での高齢者になった男たち同士の会話なのだ!