閉門即是深山 170
芥川賞と直木賞
先週は、第156回の芥川賞の受賞が山下澄人さんの『しんせかい』と直木賞が恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』に決まったことを書いたが、ついつい以前から期待していた恩田陸さんの事だけを書いて終わってしまった。
どうしても、私自身エンターティメント系(大衆文学)が好きで純文学に苦手意識を持っているので、大衆小説には能弁になる。「能弁」と辞書を引くと「弁舌の巧みなこと」とあるが、ちょっと違う。嬉しくて、お喋りしてしまう。というくらいだ。だから、直木賞の方に強く興味が沸く。出版社にいた時も人事は、私がエンターティメント好きであると見ていた。不思議なもので、と言おうか、仕事熱心と言おうか、会社は社員をよく観ていて、純文学好きを『文学界』系の担当にし、大衆文学好きを『オール讀物』系に配置する。恐れい入る。
さて、私の弱い部分の第156回芥川賞の話である。
昭和10年『文藝春秋』新年号に、芥川・直木賞宣言が書かれているが、次いで両賞の「規定」と「細目」がある。両賞の規定と細目は、ほとんどが同じではあるが芥川賞には「広く各新聞雑誌(同人雑誌を含む)に発表されたる無名若しくは新進作家の創作中最も優秀なるものに呈す」とある。直木賞には「(前文同じで)無名若しくは新進作家の大衆文芸中最も優秀なるもの」とこの部分が違う。また「細目」には、芥川賞規定の第一項にある「創作」は戯曲をふくむものであることが書かれ、直木賞の部分には、「大衆文芸」とあるのは「題材の時代や性質(現代小説・ユーモア小説等)その他に、何等制限なき意味である」ことを断っている。時代によってこれらの規定や細目が少しずつ変わってきている。新聞小説は単行本になり、優秀な同人誌が少なくなってきた今、同人誌が外されて、新進作家に対する新人賞の役割は芥川賞に残っているが、社会性を帯びてきた今、直木賞は、中堅作家のお尻を後押しする役目に変わった。
今回の第156回芥川龍之介賞を受賞されて山下澄人氏は、新聞によれば51歳神戸市生まれで、高校卒業後に脚本家・倉本聰さんが主幹する「富良野塾」で勉強し、1996年から劇団を主幹する。と書かれている。『縁のさる』で講談社の野間文学賞を2012年に受賞された。今回、芥川賞候補は4回で受賞されたらしい。
受賞作の『しんせかい』(新潮7月号)は、富良野塾での記憶をたどった青春小説である。「僕が芥川賞作家ですよ、うそやろって感じ」と山下さんの受賞の弁。選考委員の吉田修一さんは「空振り感がある。王道の青春小説にはない新しさがある」と評する。2月発売の雑誌『文学界』に全文と評が掲載される。