総合司会 | honya.jp

閉門即是深山 100

総合司会

先月8月18日、日本生命丸の内ビル4階の会議室。ここでNPO法人EBH推進協議会と日本生命の関連企業(株)ライフケアパートナーズ、そしてNHKグループ会社とのコラボレーション・イベントが開催された。
題して、第63回『情報素材料理会』である。

料理会といっても朝のテレビ番組のように速水もこみちさんが来て料理を作るわけではない。出演者は、京都大学医学研究科社会健康医学分野の中山健夫教授が座長になり、大学病院医療情報ネットワーク研究センター長で東京大学大学院医学系研究科 医療コミュニケーション学の木内貴弘教授、慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学の武林亨教授、滋賀医科大学社会医学講座の三浦克之教授という重鎮の面々である。

会のテーマは「持ち寄って見える自分の健康、みんなの健康」とパンフレットには書かれていた。
惹句<じゃっく>には「わたしが情報を発信すると、半分はわたしのために、半分は誰かのために」と書かれている。私の祖父・菊池寛は、何かを考えるとき、そして、それを施行するとき「一に自分のため、一に他人のため」とよく書いたが、少々真似くさい。しかし、「半分はわたしのために、半分は誰かのために」は、わかり難い文章である。きっと同じ意味で書かれたような気がする。
……なんて、考えていて次の行を読んでビックリした。
総合司会:菊池夏樹と私の名前があったからだ。なんせ上記した途轍もないエラ~い先生の講演というか座談会の司会である。そこに私の顔写真も掲載されていて吹き出しのような部分があり、その中に次のような文章が書かれていた。

「今回の芥川賞は、お笑いタレントの又吉直樹さんが授賞されましたね。芥川賞と直木賞は、私の祖父の菊池寛が芥川龍之介と直木三十五という二人の友人を記念して創った賞です。祖父が創った株式会社文藝春秋も九十年。僕も人生最後のふんばりで、新ジャンルに船出しています。むずかしい医療・健康情報を、一般の人にもわかりやすい言葉にしてお伝えする本を先生方と一緒に創っていきたいと思っています。」

それは、わかります。わかりますが、医療のことがほとんど判らず、勉強もしてない私が、そっ、そっ、総合司会なんて、でっ、出来っこないよ!むっ、無理でしょ、誰が考えたって、むっ、無理ですよ!そんなこと。
それに、最後のふんばりなんて本当のこと書かないでよ。最後じゃないかも知れないんだもん!

私は、若いときバンドを組んでアルバイトをしていた。今の合コンと同じで、何百人と集まる大学のダンスパーティーやリゾートホテルのメインダイニングや赤坂の高級クラブで、また、浅草のトンカツ屋のビルの屋上で夏にはビール片手のオッサンやオバちゃんのカラオケではなく生オケの相手もした。舞台度胸は、結構ある。
20歳をちょっと越えたころ、金持ちの友人の結婚式の総合司会もした。客人は、約1000名。華僑の大親分の息子だったから、1000名。この司会は、思い出したくもない。頭がブッ飛んで、覚えていないのだ。ずうずうしい私も足が震え、手も、唇さえも震えていた。
出版社に入り、芥川賞や直木賞、菊池寛賞や大宅壮一ノンフィクション賞、松本清張賞の受賞式の総合司会者として1000名以上の来賓の前にしばしば立ったこともある。また、退職してから約10年近く、毎年高松市で講演会の総合司会のようなものもやらされている。また、有名な作家と座談会もする。しかし、それはどれも自分の知った知識の範疇のもので、何が起こっても何とか対処できるという自信があるものだから何とかこなせてきた。

こんな思いもよらない試練が、人前でもふてぶてしく、また図々しくマイクの前に立っていられるようにしてくれたのである。が、しかし、座談会が開会され、エラ~イ先生方が話し出して初めて判ったことがある。それぞれが一線上に並んでマイクを持ってしゃべるから、エラ~イ先生たちの声が聞こえないのだ。マイクの声は、視聴者に聞こえるようになっているけどこちらには聞こえてこない。よくライブ演奏の舞台などでスピーカーが歌手やバンドの方を向いているが、その意味は、これだったのだ。
私は、エラ~イ先生がお話をしている間、聞こえている風を装って相槌を打っていた。聞こえないのに!これは、マイクばかりのセイでは無い。私は、難聴なのだ。ついに、相槌を打ってばかりいられない時がきた!
私は、なにもわからず、ただ、「天気予報や交通情報みたいなものですねぇ、今スマホをもっている人たちは多いから、長崎市に雨が降り出したの、静岡が大雨だの、情報を素早く伝えることが出来る。交通情報も以前から空港行きのリムジンバスなんて、どこが混んでいるとか、どこが空いているとか、センターに情報を流す。それによって飛行機へ乗れない人たちを無くそうとしている。医療だって、多くの人たちの情報を集めたら奇病と言われる病気だって治るようになるかも知れませんからね。まだ沢山の病気の原因が判っていないらしいから、大いに役立ちますよ。ただ、個人情報保護法なんかあるからねぇ~」
何も聞こえないというのも良いかも知れない。どんなに隣にエラ~イ先生が居たって聞こえないのだから!

こんなクダラナイ話や愚痴を言っているうちに、このブログも100回目になった!
それこそ最後のふんばりで!