閉門即是深山　８７

大掃除

このタイトルは、季節にそぐわない。
わかっちゃいるけど、暮れの大掃除は手伝わなかったが、自分のためにやった。
以前このブログに書いたが、友人宅に２０数年も預けてあった楽器、ドラムの大掃除を始めたのだ。
１日に約４時間もかけて４日もやっているが、まだ全てが綺麗になったわけではない。

まず、祖父の遺品を高松にある高松市菊池寛記念館に送った後、倉庫にドラムを入れるスペースを空けた。私の持つアメリカのＬＵＤＩＮＧ製の大太鼓バスドラムは直径２４インチもある。ワインの樽を少し切り落としたようなしろ物である。それもチーク材でも使ったのだろうか。重い、かなり重い。
友人宅から一式を持ち帰るには郵便宅配便の小さなトラックが必要になる。なぜなら、私の車、けして小さい方ではないが、ドアから入れられないようである。デカ過ぎるのだ。
悩んだあげく、バラして積むことにした。ドラムは、本体に皮を張り、枠をはめて金具でおさえてある。両面だから大変な仕事になる。ついでに表にはめるロゴ入りの皮を買ってつけ替えることにした。

倉庫に持って帰ると部品が無くなっていることに気がついた。また、ゴムも傷んだり、切れたりしている。何十年ぶりに楽器屋を訪ねた。なにしろ全ての部位は、５０年近く経っている。
ドラム本体は、中古でしか買えなかったから、全てビンテージ物である。
ネジの部分に少し浮きだした錆を綺麗に落とす。錆止めを金具類に塗る。胴体は、家具用のワックスをかけた。
新品同様とまではいかないが、ピカピカと往年の輝きが戻ってきたように見える。もともと木製だし、中古だから胴体に少し傷はある。が、しょうがない。

私が１８歳のころ、ドラムなどプロの楽器ショップにしかなかった。教えてくれる教室や先生などもいなかった。１ドル３６０円の時代のアメリカ製の楽器だから、中古でも目が飛び出るくらいに高価だった。安い、ペナペナのドラムを買ってダンスパーティーなどに出演してアルバイトをした。金を貯めてやっと手に入れたものだが、仕事にかまけて友人の屋根裏に追いやった。

ドラムもみがかれ、気持ちが良いのだろう。綺麗な声を出した。
しかし、ふっと思った。愛おしいには変わりがないが、歳をとった私には、重すぎる。
自分だけでは、とても運べない。
バラバラにして持って帰れたものの、バンドを組んで何処かでやるには、不都合であった。
部品を買いに渋谷にある楽器屋を訪ねた時に、裏のビルの二階にドラム専門館があると言われ、専門館にあがった。
なんと心地が良いのだろう。昔は、楽器屋に入り浸っていたが、懐かしさとともにホッとした。自分が１８歳のころに戻っていた。

その店には、いろいろなサイズのドラムスが展示されていた。私のと同じ時代の同じメーカーのドラムスの３点セットも飾られていた。なんの２０万円の値札が付いている。ウヒャー！もちろん中古で買った時は、もっと高かったがいまやビンテージとしての価値があるらしい。世界中探しても私のセットは、いまや何処にも無いのであろう。
その隣に同じメーカーの小さなセットが飾られていた。
昔は、そんな小さなセットは無かった。店員さんに言って音を出させてもらった。なにせ今持っている２４インチの部分が１６インチしかない。音が高いのでは？と聞くと円が小さいぶん少しは高いが、チューニングすればあまり遜色は無いそうだ。値段もリズナブル。３点セットで洋服の青山で買うスーツか有名ブランドで売っている中折れ帽と同じくらい。他の部品は、皆持っているから買う必要がない。何年ぶりかで衝動買いをしてしまった。まだ、家人には言えないでいる。

私は、４点セットで太鼓を叩く。もう１点は、それに付けるため楽器屋さんに中古を探してもらっている。色は、黒に少しキラキラとラメが入っている。これなら、私でも運べる。車にもバラさずに入った。

５０年前、我々はバンドを組んだ。ハシリのロックバンドで、名前は、高校の軽音楽部が使っていた「Ｔｈｅ　ＸＬ－５」。５人のメンバーだった。２人は、死んだ。大掃除が済んで、昔の仲間に電話をした。私を含め３人は、ＯＫ！途中からメンバーに加わったキーボードは、やりたいけど足が痛いだの言う。彼は、１０年くらい前に父親の介護で鬱状態になり、住まいも郊外に移した。仕事も家で出来ることをしたらしい。結局、家から出ない生活をするようになったようだ。さっき彼の携帯に電話をして口説いた。
「家に居ちゃぁ、身体も弱る。足も弱って傷む。そのうち死んじゃうぞ！リハビリ、リハビリと思って出て来い！どうせひと月に１回か２回だけだよ」

私は、昔のバンド仲間のギター屋とレッド・シューズというバンドを組んでいる。それは、優しいソフトロックだ。ニューＸＬ４のベース屋が電話で言うようにジャズもサンバもやってみたくなった。これから、渋谷の楽器屋に行く。フロアータムの足のゴムを３個とシンバルに付けるシズルの鎖を買うために！